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知り合いと母親


それは、ある日突然親の口から告げられた。



「実は来週からお父さんの転勤で引っ越すことになりましたー」


『え?急だなおい!』


「いやー驚かせようと思って」


『そりゃ驚いたけど…どこに転勤なの?』


「それがなんと…アメリカなの!」


『そっちのがビックリなんですけど!!うーん…行きたくないなぁ』


来週なんて急すぎる。父親の転勤が多いせいでいろいろな学校を転々としていた私は、転校するたびになかなか学校に馴染めずにいたのだが、今回は期間が長かったおかげで親友たるものができたのだ。せっかく親友ができたというのにまた転校なんて…しかもアメリカって!
うんうん唸っていたらお母さんが大丈夫ーなんて言いながらヘラリと笑った。


「名前ちゃんがそう言うと思って、お母さん知り合いに頼んどいたのよ!」


『え、そうなの!?じゃあまた隣のおばさん家にお世話になるのかー』


この街に越してからは何かと隣に住んでいるおばさんに助けてもらっている。優しい人だし家も隣だしと納得していると、お母さんは違うわよーとまたヘラリと笑った。


「沢田さんって人に頼んだのよ」


『いや誰!?』


「この前買い物に行った時ねー実はひったくりにあっちゃってね、その時に犯人を捕まえてくれた人なのよー!」


『…それ、知り合い?』


「帰りまた危険だからって送ってもらっちゃって、その時に名前ちゃんの話したら良かったら僕のとこで預かりましょうかって!」


『会ったその日に何言ってんのー!?』


「何でも普段イタリアでお仕事してるらしいんだけど、たまたまこっちに帰国してるらしいのよ。しかもあの黒ベンツ!絶対お金持ちよ〜」


『いやだからそういうのはいいから!その沢田さんって明らか他人じゃん!!』


娘のツッコミを華麗にスルーしながら沢田さんとやらについて語り続ける親に、小さくため息をついた。
見知らぬ人にお世話になるよりは、親についてアメリカに行く方がまだマシだ。親友との別れは辛いが、仕方ない。
その意図を告げようとしたら、それより先にお母さんが口を開いた。


「じゃあ、沢田さん金曜日に迎えに来るから」


『は!?私が日本に残ること決定?』


「もうお願いしちゃったもん」


『もんじゃねーよ!ちょ、私その沢田さんって人知らないんだけど!?』


「大丈夫よー優しい人だから」


なんと抗議しても大丈夫の一点張りのお母さん。何としてでも私を沢田さんとやらに預けたいらしい。
…まあいいや。沢田さんとやらが迎えに来たら「一人で住めます」って断ればいいや。
そんなことを考えながら、未だ続くお母さんの"沢田さん話"に適当に頷くのだった。



あきゅろす。
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