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そうだよもしかしたら日吉君と睦まじくお喋り出来たかもしれないのに何で跡部が来るんだよ恥ずかしいとか言ってる場合じゃねえよ恥じらいなんてとっくの昔に不燃ゴミに出したじゃねえかというか寄越せばよかったなじゃなくて寄越してくれよほんと使えねー奴だよ日吉君こんな奴目の敵にすることないよ私はいつだって君を応援しているよ!

「お前、俺様に対してとてつもなく失礼なことを考えやがるな。」

「それについては答えかねます。」

「どうせ俺様は役に立たねー奴だよ。俺様じゃなくて日吉が来てくれたらもりこは嬉しかったんだよなぁ。」

「さすがに卑屈すぎでしょ。てか名前呼びやめて下さいきもい。」

事実跡部が言う通りのことを考えていたのだが、まさか本人の口からそんなネガティブ発言が出るとは思わなかった。卑屈にもなるぜ、と跡部は私の頭を鞄で小突く。抗議してやろうと思い跡部を見たら、普段見せもしないような菩薩スマイルで鞄を渡されたので口を噤んでしまった。

「乗ってくだろ?」

もしかしなくとも跡部家のものであろう車を指しながら跡部は言った。送ってやるというのは当然の如く門までだと思っていたので狼狽する。私はもげてしまうのではないかというくらい首を横に振って跡部の質問を否定した。詳しい場所は知らないが跡部の家は私の家とは真逆だったと記憶している。日は完全に落ちているといってもそこまで危ない時間ではないし、こんな寒い中で下半身を露出するような変質者も現れないだろう。何よりも私の性格上、この車に乗ったら卒業するまでこいつに恩義を感じてしまう。脳がやめておけと言っていた。

「別に取って食おうなんざ思ってねーよ。」

「そこまで自意識過剰でもないわ。」

「じゃあ乗れ。一人で帰すのは危ねー。」

「大丈夫だって。家近いから。」

「心配なんだよ。」

いつになく真面目な顔をするもんだから私はまたも狼狽えてしまった。今日のこいつは本当におかしい。そんなに大切にするほど会計の仕事を全うしているとも思えない私に対するこの執着ぶりは何だ。私にお熱なのか?という考えは瞬殺した。日常から思い出される諸々の仕打ちが有り得ないと笑っている。乗ると言わなければ梃子でも動かないであろう跡部を前に溜め息が漏れた。乗る乗らないの押し問答でますます帰宅が遅れるのは願い下げだ。

「跡部が乗れと言ったから乗るのであって、私が卒業まで跡部に忠誠を誓う必要はない!」

「何一人でぶつぶつ言ってんだ。」

「本当に、致し方ないけど、不本意ながら、このもりやまもりこ、ベンツに初乗車させて頂きます!」

「…?ああ、頭ぶつけんなよ。」

私が乗り込む時、跡部は車体の上方を手で覆いながらそう告げた。何この人エスコートし慣れすぎで恐いんですけど。とてもいい香りのする車内に胸を高鳴らせる暇も与えず、跡部が隣に座る。扉が閉まり、待ってましたとばかりに動き出す車にひとつの疑問が湧いた。

あれ、家の場所言ってなくね?というか進んでる方向逆じゃね?

もしかして跡部の家と私の家は同じ方向だったのかもしれない。どんどん変わる窓の外を見ながら冷静に考えた。見知らぬ繁華街、見知らぬ駅、明らかに自分の帰宅路ではないその景色に不安は増す一方だ。私は恐る恐る跡部に訪ねた。

「ねぇ跡部、運転手さんはどこに向かってるのかな?」

「アーン?そんなの決まってんだろ。」

「ですよねーひとつしかないよねー。見慣れない建物ばっかりだからちょっとびっくりしちゃって。で、後何分くらいで着くの?」

「20分くらいじゃねーの。大して道も混んでねーしな。」

何が嬉しいのかわからないが、跡部は目に見えるくらい上機嫌だ。オラワクワクすっぞ!という吹き出しをつけてもおかしくないその様子が少々気持ち悪い。跡部の予想通りきっかり20分後に到着した場所で私は跡部の意図を知ることになる。上機嫌の理由はまんまと悪巧みにハマった私が面白かったからだろう。あの時しっかりどこへ向かっているのか聞くべきだったと後悔してももう遅かった。一等地に構えられた豪邸を眼前に、背筋を嫌な汗が滑る。隣の男は悪びれもせずこう言った。


「飯食ってけよ。今度はちゃんともりこん家に送ってやるから心配すんな。」


END

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