ワインレッドの心
こいつには恥じらいというものがないのだろうか。下半身はしっかりとスカートを着用しているものの、上半身は下着のみという格好でもりやまは佇んでいた。着替えの途中だったらしく、右手にワイシャツを握っている。突然開かれた扉に彼女はぴたりと動きを止めたが、こちらを一瞥した後、何事もなかったかのようにワイシャツに腕を通したのだった。
「こんな所で着替えてんじゃねえよ。」
俺はその光景を視界に入れないよう配慮しながら自分のロッカーへと向かう。彼女がなぜここで着替えているのかは不明だ。しかし予想はつく。大方、女子更衣室まで行くのが面倒だったとかそんな理由だろう。他の部員は既に帰宅しているし、いつもなら早々と姿を消す俺が残っているなど思いもよらなかったといったところか。そんな予想を立てながら自身も汗の染み込んだユニフォームを脱ぐ。シャワーを浴びるには時間が遅かった。どうせ後は家に帰るだけなので大した支障もないと制服に手をかける。
「みんな帰ったと思ったんだよ。すまんね、見苦しいものを見せて。」
振り返ると、そこには完璧に帰り支度を済ませたもりやまの姿があった。背を向けているのは、恐らく俺が着替えていることが分かっているからだろう。見苦しくはない、と言いかけてやめた。なぜフォローの言葉を与えなければならないのだ。あれこれ思案を巡らせ、ああ、とだけ応えることにする。謝ろうかとも思ったが、こちらに非はないと自己完結した。こんな所で着替えているもりやまが悪い。自分は悪くない。
「じゃあ帰るから、戸締まりよろしく。お疲れ様ー。」
彼女の声とほぼ同時に、パタンと扉の締まる音が耳に入った。随分あっさりしたもんだ。少し消沈した。男に下着姿を見られたというのに。そういった神経の発達が遅れているのか、それとも慣れているのか。後者なら腹が立つな、とハーフパンツを下げながら考える。
「はは、まじかよ。」
自分の下着であるワイン色のボクサーパンツを目にし、思わず呟いてしまった。脳裏にもりやまの下着姿がフラッシュバックする。まさか同じ色だったとは。予想外のことで呆気に取られた。この色がかぶるなんて錚々ないだろう。
ブラがフロントホックであったこと、細い二の腕、綺麗な形のへそ、引き締まったくびれ。思い返して見ると細部までしっかり再現出来た。我ながら卑しい奴だと、俺は苦笑せずにいられなかった。この下着はどこか目のつかないところに保管しよう。そう心に決めた。
END
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