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電話(拓珠)

季節はもう木の葉が全て舞い、そろそろ雪でも降ってきそうな冬へと変わった。

両親を説得に帰って行った珠紀。

すぐに帰って来ると約束もしたし、みんなもそう思い、盛大な見送りはしていない。

だから、みんなで珠紀が帰って来るのを今か今かと待っている。

だが俺は、この村にお前がいないと思う、ただ、それだけのことで時間がつまらないものでゆっくりと経つようになった。

ただ単に、お前がくる前に戻っただけなのに、学校に行っても、神社に行ってもなぜかお前を探しちまう。

前までは嫌でも一緒にいるのが当たり前だったのに。きっと、俺は自分でも気づかないくらい、お前のことをずっと見てたんだな。

お前の顔も、声すらも聞けない日々は俺にとっては我慢ならないものなんだって気づかされる。

おかしいよな。自分では我慢強い方だと思ってたのに、こんな様になっちまうなんて。

俺の思い違いだったのか、それとも、珠紀。お前の存在が我慢強い俺が我慢できないくらいにどうしようもないかけがえのない存在なんじゃないかって思う。

どっちにしろ、もう、俺はお前がいないとだめみたいだ。

お前はどうなんだろうな。お前は俺がいなくて寂しいと思ってくれてるか?

俺がいなくて寂しくて会いたいって思ってくれてくれてるのか?

普段、あまり素直じゃないからな、お互いに。

こんなこと聞いてもお前はきっとバカとか言ってちゃんと答えてくれそうにないよな。

でも、その一言でもいいからお前の声が聞きたい。

そう思って、現在電話機と向き合っているわけだが。

電話番号を決して知らないわけじゃない。ずっと前から知っていた。

でも、かけられないでいた。だって、もし声が聞きたいだけでかけたら迷惑だと思われるかもしれないわけで。

そもそも、あいつは両親を説得するために帰ってるから、両親を説得中にかけてしまったら。

結局今日もかけられそうもない。

せめて、あっちから電話がこればいいんだが。

部屋に戻ろうとしたその時、電話がなった。

そんな偶然あるはずがない。そう思って、俺は受話器をそっとあげた。



?「もしもし、狐邑だ」

拓「……なんすか。祐一先輩」

祐「ああ、拓磨か。急だが、明日に珠紀が帰って来る。それで、ババさまがまたお前を迎えにとって言っている。時間はだが――」

拓「――って、今珠紀が帰って来るって、マジっすか!?」

祐「ああ。良かったな」

拓「……はい」



明日、お前が帰ってくる。その言葉を聞いただけで俺は胸がいっぱいになる。

久しぶりに見るお前の姿はどんな風に見えるんだろうな。

明日帰ってくるってことは電話かけても大丈夫なんじゃないか?明日帰ってくるし、一番最初に会えるし、あと少し待てば――…。



祐「電話、するといい」

拓「でも、明日帰ってくるんじゃないっすか」

祐「いつ帰って来ようと、来まいと電話はしてはいけないことはない。してやれ。きっと喜ぶ」

拓「喜ぶかどうかは微妙なところっすね」

祐「まあ、それ抜きにしてもかけたかったのだろう?」

拓「ま、まあ」

祐「だったら、かけるといい」

拓「はい、ありがとうございます」



勢いよく受話器を下ろし、珠紀の家の電話番号を一個一個、間違いのないように打っていく。

なんでか、手が震えちまって全然押せないのは緊張のせいでないと思いたいな。

やっと押し終え、ダイヤルがかかる音に俺の心臓は高く波打つ。

これじゃまるで、恋する乙女じゃねえか。俺は恋はしてるが乙女じゃねえ。

全く、なんで一々珠紀に電話かけるくらいで緊張してんだ。村にいるころは普通にしてたのに。ったく。

少し経ち、受話器が上がった音がした。この音のせいで俺の心臓はより高鳴る。



?「もしもし、春日です」

拓「あの、鬼崎といいますが。あの、珠紀…さんはいらっしゃいますか?」

?「……」

拓「あのー」

?「……」



おかしい。さっさ、春日っていったのに珠紀のことを聞いたら返事が無くなっちまった。

もしかしたら、間違えたのかもしれない。押し間違いしたかな。



拓「あの、間違えたみたいなんですいませ――」

?「――待って、私だよ」

拓「珠紀、か?」

珠「うん、びっくりして声出せなかったよ。ごめん」

拓「いいんだ。実というと俺も受話器が上がった時に緊張して声が裏返りそうになったし」

珠「言わなくてもわかってたから。拓磨が緊張するなんて珍しい」

拓「いいだろ、別に。それにお前ちょっと鼻声な」

珠「ち、ち、違うわよ。うれしくて泣いたんじゃないから」

拓「わかった、わかった」

珠「なんか悔しいのはなんで?」

拓「さあな」



久しぶりに聞いた珠紀の声は懐かしかった。

明日会えるとわかっているのに、今すぐに会って抱きしめたいと思ってしまう。



拓「俺はお前に心底惚れてんだな」

珠「はっ!?急になに?」

拓「だから、早く帰って来いよ」

珠「……うん」

拓「んじゃ、名残惜しいけど切るな」

珠「うん、じゃあね」

拓「おう」

珠「……」

拓「……」

珠「……えーっと、切らないの?」

拓「お前が切れよ」

珠「それじゃ、同時。同時に切ろ」

拓珠「せーの」



切ってしまった電話。しばらく受話器から手が離れそうにない。



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