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一発芸(緋色)

もうすぐ年も明けるし、締めといえばアレらしい。

みんなこの日のために毎年アレの練習を頑張っているとかいないとか。

そしてなぜだか私まで参加することになってしまっていた。



真「では早速毎年恒例、一発芸大会を始めるぜ!」

珠「本当にやるんですか!?」

真「ったりめぇよぉ。なにすっとんきょうなこと抜かしてやがる」

珠「すっとんきょうって……いつもの真弘先輩の冗談だとばっかり」

拓「珠紀、お前ひょっとして芸がないのか?」

珠「あるっていえばあるけど、自信ない」

祐「それじゃあ、先にやるといい」

珠「一番手ですか!?」

卓「いい手だと思いますよ。最後の方だとみんなの芸を見た上で自信がますますなくなるでしょうから」

真「珠紀!やるなら早く始めろよ!」

珠「えぇ?……それじゃ頑張ってきます!」

慎「頑張ってください」



一発芸……じゃないかもしれないけど、今の私にはこの手しかない。

そう思って取り出したのは、一本のスプーン。

それを見てみんな目を丸くする。

まあ、そこらへんスルーでさっさと終わらせちゃお!



珠「今からスプーン曲げまーす。むむむ、えいっ。できた」

慎「すごいです。先輩」



慎司くん一人だけが拍手をくれる。

呆れた顔二名、なにを考えてるかわからない人一名、暖かい視線二名。

そんな中、真弘先輩が大きなため息をついた。



珠「なんなんですか。その大きなため息は」

真「そいつをやるとはタフだなって思ってよ」

珠「はい?それってどういう意味ですか?」

拓「スプーン曲げは慎司の十八番なんだよ。まあ、お前は知らなくて無理はないけどな」

珠「そうだったの?ごめんね、慎司くん。もしかしてかぶっちゃった?」

慎「あ、えっと……はい。で、でも気にしないでください。先輩初めて参加するから知らなかったのは無理ありませんから」

珠「本当にごめんね」

慎「謝らないでください」

珠「でも――」

祐「――大丈夫だ、珠紀。お前の芸を見たところで慎司は別に困りはしない」

美「お兄さん、とっても上手いんですよ!スプーン曲げ」

珠「ちょっと、引っ掛かるけど、それなら安心」

真「それじゃあ、次は慎司いけ。本当のスプーン曲げを見せてやれよ」

珠「それ、私のこと思いっきりバカにしてます?」

慎「珠紀先輩!真弘先輩もやめてください。そんな大層なものじゃないですから」

祐「そうか?あんなにきれいにはなかなかできないと思うが」

拓「まあとりあえずやれよ。慎司」

慎「では、まっがーれ」



珠「本当!すごいよ。慎司」

慎「そんな、言霊のおかげですよ。美鶴ちゃんの方が僕よりもっとすごいんですよ」

珠「そうなの?そういえば美鶴ちゃんもっと言霊使えるもんね。見たいなぁ」

美「……」

拓「おい、珠紀」

珠「なに?拓磨」

拓「美鶴にスプーン曲げは――」

美「――私やります!」

珠「本当に?」

美「はい。珠紀さまのため、頑張らせていただきます」

真「美鶴、無理しなくてもいんだぞ」

美「大丈夫です。私、やれます」

珠「美鶴ちゃん、頑張って」

美「はい。では……まがれ」

←スプーンの円が綺麗に捻れている。

珠「確かにすごいね」

慎「でしょう?こんな風に曲げるのはさすがに僕でも難しいんですよ」

美「……どうしていっつも。お兄さんはできて私はできないの?」

珠「み、美鶴ちゃん?」

美「おまけに、珠紀さまの前でなんたる失態を」

珠「気にしてないから」

美「いいえ、きっとスプーン曲げも満足にできない私に失望されているに違いありません」

珠「美鶴ちゃん。だから――」

美「――これもあれも全部。お兄さんのせい。お兄さんさえいなくなれば……」

慎「美鶴ちゃん!落ち着いて!」

美「いなくなってよぉお!」



その後は一発芸をやるどころではなくなってしまったのでした。



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