武士じゃなかったら(平千)
木の下で今日も千鶴と一緒に日向ごっこをしにきていた。
何気ない会話をしている時、たまに思うんだ。
この世に武士という存在がなかったら俺は……俺たちは一体どんな人生を歩んでいたんだろうって。
全てが終わったからこそ考えられる話を。
藤「とりあえず、俺は道場の先生とかかなぁ」
雪「うーん。確かに道場にはいそうだけど、門下生だと思う。平助くんの場合、もっと違う職に就いてると思うよ」
藤「ふうん?じゃ、千鶴。それは一体どんなだ?」
雪「えっと、私はね、なんとなくだけどお店で接客してるイメージがあるかな。平助くんそういうの向いてると思うんだ」
藤「そっかぁ、俺って確かにそういう接客業向いてるかもだしな」
雪「うん、平助くんってとっても接しやすいし。きっと新選組に入ってなかったらしてそうだね」
藤「そうだなぁ、それじゃ今から店でも開くか?」
雪「もう、すぐ調子に乗るんだから」
藤「冗談だって、冗談!」
二人で笑い合いながらのたわいもない会話。
今はいないけどこんなこと、みんなにいったら笑われるだろうな。
藤「……所詮は例え話。こんな話をみんなにしたらどんな反応されるか。はは」
雪「そんなことないよ。きっとみんな一度は考えたことはあるはずだし」
藤「そりゃあ、考えたことはあるだろうけど……いったら笑われる、確実に。特にしんぱっさあんとか左之さんあたりが大声で」
雪「あはは、確かに笑われそうだね。お二人とも平助くんをよくからかってらしたから」
藤「だろ?まあこんなこと話せるのはお前くらいだからな」
雪「私?」
藤「ああ。まあ今は話したくても他の奴らには話せねーからな」
雪「……」
藤「っと、すまねー。こんな雰囲気になるような話じゃなかったのにな。悪ぃ!」
雪「……平助くん、大丈夫だよ」
藤「本当に許してく――」
雪「――大丈夫だよ。私は最後まで一緒だからね」
この瞬間、また彼女の優しい笑顔に救われちまった。
藤「……ああ、ずっと一緒にいような」
そうだな。
武士であろうとなかろうと、人間であろうとなかろうと、俺の一生を持ってこいつを護って生き続けることには変わりないんだから。
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