拾ったよ(斎千)
雨が降り、凍えるような寒さの中を歩いていると、弱々しい鳴き声が聞こえた。
耳をすますと、その鳴き声は屯所の表門近くにある木箱から聞こえるものと分かる。
それは捨てられてしまったのだとすぐに分かった。
斎「副長、表にこれがおいてありましたがどう対処しましょう」
土「うん?犬か。なんでそんなもん拾ってきたんだ、斎藤」
斎「屯所で飼うということはできないでしょうか?」
沖「へぇ、子犬かぁ。可愛いじゃないですか。土方さん、いいじゃないですか、飼いましょうよ」
土「…あのなぁ、総司。飼うにしろ、飼わないにしろ、一体誰が世話するんだよ」
沖「そりゃもちろん、拾ってきた一くんでしょ」
山「しかし、斎藤くんには隊務が多い。彼に限らず皆忙しい。全ての隊士にとっても無理な話ですよ」
雪「あ、あの、お茶が入りました」
近「やあ、雪村くん。お茶を淹れてくれたのか」
雪「はい。冷めないうちにどうぞ」
沖「……山南さん、一人だけ暇な子いるじゃないですか。ね、千鶴ちゃん」
土「なにをいいやがると思えば…総司、こいつ一人で犬の世話できるわけねぇだろーが」
斎「やはり無理な用件だったでしょうか」
土「ああ、屯所じゃ犬は飼えねー。あきらめろ」
斎「わかりました」
沖「一くん、そんな人のいうこと聞かなくてもいいんじゃない?雨の中子犬を再び外へ追い払う鬼副長のいうことなんてね」
土「なんだと、総司ぃ」
近「まあまあ、いいじゃないか、トシ」
山「近藤さん、そんなに隊士を甘やかしては困ります」
土「そうだぜ、近藤さん。そんなホイホイ犬拾ってんじゃ屯所がそのうち犬だらけになっちまう」
近「今後から禁止にすればいいさ。そうすれば隊士が犬を拾うことはないだろ」
土「それじゃ、聞くが、誰が面倒見るんだ。近藤さんよぅ」
近「さっき総司がいっただろ。雪村くん。君に頼みたいのだが、いいだろうか」
雪「え?わ、私ですか?」
近「屯所では一人でなにかと寂しい思いをしているだろう。子犬の世話でもすれば少しは気が楽になるんじゃないかね」
雪「私は別に構いませんが…」
近「一人では厳しいのであれば手の空いている隊士を使ってくれて構わんよ」
雪「そ、それなら私頑張れると思います」
近「そうか、そうか。ということでいいんじゃないか?トシ」
土「……ちっ…ったく、分かったよ。千鶴、そいつが暴れ回らねーようにちゃんとしつけしとけよ」
雪「はい!」
斎「……副長」
土「なんだ、斎藤」
斎「ありがとうございました」
土「なに、彼女がしつけするって自信満々にいったからな。俺はそれをできると思ったから許してやったんだ。それよりもいろいろと手伝ってやれよ。拾ってきたのはお前なんだからな」
斎「はい、もちろんです。副長」
総司を始め、局長たちの発言のおかげで副長の許可を無事に得ることができたから犬を飼えるようになった。
もう二度とあのような場所には置き去りにされぬように護っていきたいと強く思う。
それは、きっと…
沖「にしても珍しいよね。一くんが動物拾ってくるなんてさ」
斎「副長たちの目の前でいえぬ私情だ」
沖「私情?一くんにねぇ。それって一体どんなの」
斎「……あの犬は俺に似ている」
沖「どこらへんが?」
斎「どこからもう受け入れてもらえぬ故に、世の中に絶望を抱いた表情がだ」
沖「へぇ、あの犬そんなに酷い表情してたのか。でも、一くんが連れてきた時そんな表情じゃなかったよね」
斎「そうだったか?きっと屯所にいれてやったから安心したんだろう」
沖「新選組に入ることができた一くんみたいに?」
斎「……ああ、そうかもしれないな」
沖「そっか、それじゃ子犬がもっと安心できるように土方さんにいわれてたようにちゃんと面倒見てあげなきゃね」
斎「そうだな」
俺は総司の言った通り、あの犬と自分を重ねてしまっていたんだな。
そして、もう一人。
雪「今日からここが君のお家だよ」
犬「キャンッ!」
彼女のように傍にいるだけで安心できる存在なのだと思う。
そしていつしか副長の命という意味でなく自らの意志の命により護っていくことを決める日がくるかもしれない。
今はまだ小さくしかない日だまりを大切にしていこう。
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