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何も分かってない
「すみません…」

「君のせいじゃないよ…こっちこそ、」

言いかけたが、試合の空気が解けてしまい、その反動で気が緩んでしゃがみ込む。

その瞬間、上から影が落ちてきた。

「何をしてるんだ…」

「シン、貴方仕事中でしょう」

「それどころじゃないだろう」

シンドバッドは執務室から走ってきたようで、僅かに息が上がっている。

アクセサリー代わりに彼が撒いている腰帯のうちの一本を解くのを、ジャーファルはぼんやりと眺めた。

シャルルカンを視界に入れようとして顎を上げたとき、一瞬、執務室の窓からシンドバッドがこちらを見ているのが見えた。

まるで我が子が遊んでいるのを見守るような顔で見ていて、余りに懐かしいその視線に目が離せなくなった瞬間、閉ざした思考が戻ってきてしまったとも言える。

シンドバッドがジャーファルの前にしゃがみこみ、服の上から真っ赤になった部分に外したばかりの腰帯を巻いた。

「あ、」

「また汚れるとか気にしてるだろう。もう遅い」

ぐっと縛られたが、痺れているのか痛みは感じなかった。

この傷は何かから目をそらそうとした罰だと、ジャーファルは思ったが、それが一体何を指しているのかはまだ漠然としていて分からない。

「…結構出血してるな。手当てするぞ」

「自分でできますよ」

「やかましい」

抱き上げようとして来る手に、ジャーファルは慌てて後ずさる。

同時に、シンドバッドの気配が悲しげに揺らいだのも感じた。

それでも、今は触れられたくなかった。

とにかくこの場から立ち去ってしまおうと立ち上がり掛けたところで膝裏を片手で掬われる。

倒れそうになったところで、シンドバッドのもう片方の手が背を支えた。

「シン!」

「逃がすか」

「本当に…!お願いですから!」

触れた部分から暖かくなっていく気配と共に、昨日の事がまざまざと蘇る。

今背を支える手に、その無骨そうな指に愛でられ、愛を情をと注がれることに身を甘んじた。

あってはならない事だ。

王と体を繋げる事の意味は、王の都合に合わせて自らの体を差し出す事。

許されるのはそこまでだと、ジャーファルは思っている。

浅ましくも、請うどころか我がもののように受け入れようとし、それを、心の一部は許さず何度も嘔吐感に苦しんだが、それでも結局、体は感じてしまった。

その一連の記憶と、向き合いたくなかったのだ。

「…シン、」

「泣くな、誰も見てない」

シンドバッドはちらりとシャルルカンに視線を向け、彼は何事か感じ取ったように踵を返す。

今日の彼は非常に聡い。

「そうじゃ、ありません」

「後で聞こう。取り敢えず運ぶからな!」

泣いてなどいないと反論しようと思ったが、今自らがどんな顔をしているのか、ジャーファル自身も想像付かなかった。

きっと、情けない顔をしている事だけは間違いない。





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