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何も分かってない
朝の動揺を引き摺ったまま、何とか食客たちの相手をしている。

仕事に戻るかとも思ったが、ジャーファルが仕事を急かしてくれないので何となくキッズルームと化しているこの場にいるわけだ。

小さなお友達から大きなお友達までいて、時々ジャーファルが覗きに来る。

先程来た時は子供たちに菓子を差し入れ、シンドバッドの方を見ることはなかった。

アラジン、アリババ、モルジアナ当たりの子供たちは何に気付いた様子もなかったが、大きなお友達はそうはいかない。

「王サマー…何しちゃったんすか」

こういう時ばかり勘のいいシャルルカンはシンドバッドの隣に座り、三メートルほど離れた位置にいるアラジンと蹴鞠でキャッチボールをしながら話し掛けて来る。

何かした覚えはあるが、ああいう態度にさせるような事をした覚えはシンドバッドにはない。

「あれは機嫌地の底っしょ」

「…だろうな」

「ジャーファルさんってマジ怒ってるときとテンパってる時はああっすよねー」

お気楽な口調で言って、シャルルカンはアラジンに蹴鞠を投げ返した。

スローテンポで蹴鞠が行き交うのを見ながら、シンドバッドは小さく息を吐いた。

自分の覚えている事で全てなら、ジャーファルがああなのはおかしい。

寝る前の時点では、幾つか次の日の反応の推測をしていたがどれとも違う。

濃厚だったのはなかった事にする事。

それは朝、否を聞いているため頭から消した。

聞かれた時に知らない振りをしないと意味がない事だ。

次は、急に関係が変わったことへの照れ臭さ。

手をはたき落とされた瞬間にどこぞに消えた。

三つ目は、してみると余りよくなかった、もしくは幻滅した。

考えたくはないが、そもそも生々しい行為であることは確かだし、途中幾度もえずいていた事を思うと否定しきれない。

「…何か覚えあるんすね」

「まあ…」

「王サマに言う言葉じゃないすけど、謝っちゃったらどうすか」

「謝って済む問題でもない」

言った瞬間、シャルルカンがアラジンの投げたボールを掴み損ね、シンドバッドの方を向いた。

ボールはピスティにお手玉を習っているアリババとモルジアナの方に転がって行く。

「初めてすよね、そんな喧嘩をするのは」

シャルルカンは何が面白いのかにんまり笑ってボールを追うために腰を上げた。

「早々に仲直りしてくださいよ。ジャーファルさん機嫌悪いと俺ばっかり怒られるんで」

出来るならしている。

謝って済むなら謝るし、小言も聞こう。

しかし、ジャーファルが、恐らくは、怯えている。

そう思うと今ひとつ自分がら近付けない。




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