雪だるまは永遠じゃない(分かってる、分かってたのに)
白い塊が空から落ちてくる。 ふわり、ふわりと地面に落ちる儚いもの。 それを人は雪と呼んだ。 「ねぇ、翼君!!」 「どうしたんだ、月子?」 「今から一緒に散歩でもしない? 実験の息抜きにでも」 目を輝かせて言うので、自然に笑みがこぼれてしまう。 そんな顔したら誰も誘いを断れる訳がない。 元々断るつもりもないけど。 「いいぞ、今から行こう!! ただ外は寒いから、俺のマフラー貸してあげる」 「いいの? 翼君が寒くなっちゃうよ」 「いいの、いいの!! 俺は月子が寒い方が嫌だから」 「ありがとう、翼君」 「うぬ」 俺は置いてあるマフラーを手に取り、優しく彼女に巻いた。 「ありがとう。 とっても暖かいよ」 「それなら良かった!! じゃあ行こうか?」 「うん!!」 外に出てみると雪は何センチか積もっていた。 既に雪は止んでおり、少しどんよりとした空模様。 雪の上を歩くと、真っ白なキャンパスに足跡が沢山描かれていく。 まるで二人の存在を確かめるように。 「真っ白だね、翼君?」 「ぬぬぬ、本当に真っ白だ!!」 「今年は沢山雪が降るね?」 「今年は特別だからきっと沢山雪が降るんだよ。 またみんなで雪合戦したい!!」 そう、今年はみんなで居られる最後の年だから。 「そうだね、特別な年だもん。 またやろうね」 「うぬ、やろう、やろう!! あ、そういえば前にみんなで作った雪だるま見に行こうよ!! 最近見に行ってなかったから、きっと寂しがってるぞ」 「じゃあ行ってみようか?」 「行く、行く!!」 俺達は散歩がてら久しぶりに雪だるまを見に行くことにした。 そんなに気温は上がっていないので、溶けてはいないはずだ。 「確かここら辺に、……………」 しばらく歩くと彼女の足が止まった。 「うぬ、どうしたんだ?」 彼女が見ている方向に目を向けると、そこには壊れた雪だるまがあった。 きっと何かの拍子に上の雪が落ちてしまったのだろう。 顔の部分だけが下に散らばっていた。 「雪だるま、壊れちゃったね」 「せっかくみんなで作ったのに。 いつかは壊れるって分かってたつもりだけどな」 「翼君………」 「あれ、どうしたんだろう俺。 なんだか胸がきゅーって痛い」 締め付けられるような痛みが走る。 なんだろうこの痛みは。 「寂しい時は我慢しなくて良いんだよ?」 そう言うと彼女は俺を抱きしめた。 「月子………」 「またみんなで雪だるま作ろう? この前と同じ雪だるまにはならないけど、また壊れちゃうけど、みんなの思い出の中にはちゃんと残ってるから。 だから寂しくなんてないよ?」 「………そっか、この痛みは寂しかったからなのか。 ねぇ、俺の中にもみんなで作った雪だるまは残ってる?」 「うん」 「消えたりしない?」 「うん、翼君の中から消えたりなんかしないよ」 「そっか、消えないんだな。 良かった、本当に良かった」 いずれモノは壊れてしまう。 壊れないモノなど有りはしない。 だからこそ人は大切な思い出のだろう。 それを彼女が教えてくれた。 「ありがとう、月子。 俺月子と出会えて良かった。 好きになれて良かった。 俺、絶対にみんなとの思い出忘れないから!!」 「私もだよ翼君?」 「そっか、じゃあずっと一緒に覚えよう!! ねぇ、月子?」 「なに、翼君?」 「俺、月子のこと大好きだ!!」 みんなに出会えて、君に出会えて俺の世界は広がった。 その分寂しい事も増えるけど、その度に今日のことを思い出そう。 そう、 いつだって心には沢山の思い出があることを。 [戻る] |