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提出用短編集
少し後ろを歩く代わりに


後ろからふわりと風がふいた。

この風に乗って、この想いが届けばいいのに。

あぁでも、やっぱり届かないでほしい。


少し後ろを歩く。
隣なんか歩けない。ぜったい、無理。

「おい」

浴衣に包まれた、陽に焼けて黒い肌。
こちらを振り向く、同じく焼けた黒い顔。

うわぁ、どうしよう。
それだけで高鳴りやがったこの心臓。
ムカつく、何でアタシばっかり。

「何で、ちょっと後ろ歩いてんだ」

「……別に、特に理由は…」

嘘。ちゃんとあるよ、理由。でも、誰が言ってやるもんか。

「なら、隣にくればいい。喋りにくいだろ」

「……いい」

「何で?」

「だって…」

だって、横なんか歩いたら、後ろからの風が、アタシの気持ちをコイツに運んでくれない。

あれ、でも届いてほしくも無いんだっけ…

あぁ、ほら分かんなくなったじゃん。
アンタのせいだ、バカ。

「誰がバカだ、こら」

「へっ?うわ、声に出してた…?!どっから?!」

「……さぁな。まぁ、もういいよ、隣こなくて」

「えっ…いいの?」

あれ、おかしい、アタシから言ったのに何かちょっと…。
いや、ショック…とかじゃないけど。

「その代わり…」

「…はっ?」

……え…?…いやいやいや。
なんだ…これ。
え、何、右手…え!?

「これで、歩けばいい。そうしたら、隣こなくても、いるって分かるし…」

「う…ぁ…、ちょっ…と」

しっかりと、つかまれた右手がどんどん熱くなるのが分かる。

いやいや、夏だし!
そりゃ、手繋いだりしたら熱くなるに決まってるし…!

あぁ、なんかもう、煩いんだけど。
さっきからアタシの胸、しきりに殴ってる奴、誰だよ。


ドキドキドキドキ、煩いよ。



「なぁ」

「……な…に」

「暑ぃな」

「……うん…」

「………゙熱い゙…な」

「……漢字が分かったアタシ、凄いよね」

「分かるように、言ったんだよ」

うん、そうだね。
涼しい風がふいてんのに。

つながれた片手だけが、熱くて熱くて、たまらないよ。



(お手を拝借いたしましょう)





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