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手紙を貰いました(流川)





棗は登校早々に下駄箱に入っていた手紙の中身を見て、やはり来たかと思い息を深く吐いた。


続いて下駄箱にやって来た友人の声を聞いてサッとカバンにしまい、何気ない笑顔で挨拶をする。

「昼休み、屋上に来てください」と書かれた手紙など誰かに見られたら面倒なことになるなど十中八九分かっていた。





「由利」

「あ、おはよ流川」





教室に入ると流川が珍しく起きており、それを好機と思ってやって来た女子に囲まれていた。

道理で機嫌が悪そうに見えたわけだ。



棗の姿を確認した女子たちは一斉に散らばり、棗は申し訳なくなりながらも席に座った。





「流川ったら、相変わらずのモテっぷりだね」

「興味ねぇ」

「バスケ一筋だもんね」

(……この鈍感が)





棗がカバンの整理をしていると流川は何かに気づいた。

視線の先には先程の手紙が見えており、棗は内心慌てながらも平静を保ちながら然り気無くカバンの奥に押し込む。





「何だよ、ソレ」

「コレ? ただの手紙だよ、大したことじゃない」

「男か?」

「さぁ?」





珍しく食いついてくる流川に驚きつつも曖昧に答えを濁し、そこで担任が入ってきたため会話は終了となった。


他人、特に流川にだけは見られたくない手紙。


横からの視線を感じながらも、棗は気にしないフリを約束の昼休みまで続けた。





――





そしてやって来た昼休み。



棗はお馴染みの三人の女子と対峙していた。





「呼んだ理由は分かっているわよね?」

「まぁ…顔見れば」

「単刀直入に言わせてもらうけど、あなた流川君に近づきすぎじゃない?」

「マネージャーだからっていい気にならないでよね」





目で人を殺せそうなくらいの迫力に棗は苦笑が漏れ、ミーハーな彼女たちへの苛立ちが次第に込み上げてきた。





「大体マネージャーの期限は一週間だったのに未だにやっていることが納得できないのよ!

早く辞めなさいよ!!」

「でもそれは赤木……」





言葉を発するところで、間髪入れずに棗は左頬に痛烈な熱が走った。

彼女たちの内の一人が殴ったのだと気づくのはすぐだった。





「あなたが辞めるって言い通さないのが悪いんでしょう!?」

「そ、そんな無茶な……」

「流川君は、みんなの流川君なの!
それをアンタみたいなあんな赤毛野蛮サルとツルんでるような奴に付きまとわれて、流川君だって迷惑してるのよ!!」





――ピキッ





「……何ですって?」





棗の周りのオーラが一瞬で殺気に変わった。

親衛隊は一瞬すごむがキーキーとさらに喚き、桜木を罵倒する言葉を並べていく。


自分のことはまだしも大切な親友をバカにされるのはこれほど腹立たしいことはない。






――すると、棗が我慢の限界に来たとき、屋上のドアが開いた。





「あ……っ」

「る、流川君!」





サイズの違う弁当の包みを寝ぼけ眼で二つ片手で持った流川は、目の前の光景を見て眉間にシワを寄せた。





「る、流川……なん、で」

「……読んだ」

「ちょっ…!?」





流川はポケットから棗が親衛隊から貰った呼び出しの手紙を出して見せ、棗は勝手に見たのかと呆れ返った。





「……安心した」

「へ?」

「野郎じゃなくて」





口を無駄にパクパクと動かし、硬直した彼女たちなど気にも留めずに流川は棗の方に歩き出し、隣に並んだ。






「……どうした、コレ」

「え、あ……っ」





頬が不自然に赤いことに気づいた流川はそっと棗の頬に触れ、親指でスッと撫でた。

まだ熱を思っているそこに流川は一瞬でついさっき出来たものだと察し、
棗の頬に触れたまま振り返り、眼光鋭く親衛隊を見据えた。





「……お前らか」

「あ、あの流川君……」

「……失せろ」





蛇に睨まれた蛙状態の彼女たちは目に涙を浮かべながら脱兎のごとく屋上から去っていった。

バタンという扉が閉まる重い音が響いた。





「あ、あのさ……ありがとう、流川」

「…なんでやり返さなかった」

「だって、そうしたら彼女たちと同じになっちゃうじゃない。
それに、暴力は嫌いだって言ったでしょ?」





お弁当ありがとうね、と受けとる棗は床に座り込むと柵に背を預け、自分の近くを軽く叩いて流川を招く。

流川はそれを断る理由などなく素直に棗の隣に腰を下ろして弁当を食べ始める。






「……悪い」

「ん、何が?」





よくよく考えればさっきの彼女たちにほんの微かだが覚えがあった流川は、もしかして自分のせいではないのかと悟った。


誤魔化しは通用しないと分かった棗は困ったように眉を下げ、自分のおかずを流川の弁当箱に一つ入れて笑った。





「気にすることないよ。
現に流川に助けて貰ったし」

「……」

「もし次があったらまた助けてくれる?」

「たりめーだ」





流川はふざけて言った棗の言葉に即答した。





居眠りナイト



(さーて、実はもう一枚手紙を貰ってたんだよね)

(……)

流川は明らかに男の字で書かれ、ハートのシールが貼られた封筒を見ると有無を言わさずに自慢の握力で握り潰した。



2012/04/01

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