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優しい嘘





始めは拒否されたが、懸命なボール磨きとフロアの掃除により赤木に入部許可を貰い晴れてバスケ部員になった桜木。



一難去ってまた一難な日々を送っているが確実に彼の生活に変化が出ている中……






「由利さん、お願い!」


『断る』





毎日のようにやってくる体格の大きい男子2人を前に、棗は腕を組んでストレスを感じていた。



中学の全国大会の剣道で優勝した経験のある棗の噂は何処から聞きつけてきたのか一気に広がり、学校に来ては剣道部の勧誘を一刀両断している。


あまりのしつこさに嫌気がさし、特に水戸たちと一緒に桜木の観察に行けないことに怒りのボルテージはふつふつと上がりつつあった。

(水戸たちが毎朝顔を合わせる度に青い顔をするのもすっかり日課になってしまっていた)






「頼むよ、由利さん!
ウチには君みたいな実力を持つ選手が欲しいんだ!」


『何度言っても無駄です。
私はカメラとスケッチと(桜木花道+軍団の観察)で忙しいんです』


「そこを何とか!」





そろそろ我慢に限界に来ていた棗はいい加減にしろと言ってやろうかと大きく息を吸ったところで……。







「棗は入らねぇって言ってんだろうが」





後ろから人の気配がすると思うと肩に手を置かれ、ぐいと引かれて剣道部と距離が出来た。


その声には怒りが滲んでおり、ちらっと上を見れば眉間に大いにシワを刻んでいる顔が見えた。





『あ、桜木』


「ゲッ、1年の桜木だ!」


「これ以上コイツに付き纏うなら俺が相手になってやるよ」


「俺たちも忘れんなよ」


『あ、水戸』





桜木の後ろにはさらに桜木軍団が控えており、顔をすっかり真っ青にした剣道部は失礼しました、と悲鳴交じりに叫んで廊下をダッシュで走り去ってしまった。


あっけない姿に桜木は舌打ちし、水戸たちはだらしねぇなと嘲笑。





『ありがとう、みんな』


「良いってことよ!
この天才にかかればあんな奴の1人や2人や3人、どうってことねぇ!」





ぬぁははは!と豪快に笑う桜木に棗は苦笑し、入学当初よりもすっかり元気になって生き生きとしているなと思った。





「それにしてもよー、本当に良いのかよ剣道?
お前あんだけいい成績残しておいてよ、勿体ない気もするぜ」



「ふん、バカめ!
棗はこの天才の勇姿を見るのに忙しいんだ!

なぁ棗!」



『うん、まぁそんなところだね』





バシバシとグローブのような手で背中を叩かれて困ったような顔を浮かべる棗に、調子づいた桜木は全く微塵も気づいていない。





『そう言えばもう桜木がバスケ部に入部して一週間が経とうとしてるけど、頑張ってる?』



「も、勿論だ!
棗が勧誘から逃げてるので忙しい間、この天才はビシビシ活躍してるぜ!」



『そうなんだ。今度は見に行けるから楽しみにしてる』



「ま、任せとけ!」





明らかに顔をひきつらせている桜木。




こうも誇らしく言ってはいるが、実際はコートの端で基礎の練習をマネージャーと一緒にやっているだけの毎日。


勿論そのことを棗は水戸たちから聞いて知っているが、コートで活躍していない自分の姿を見られるのが情けなくて嘘を言っている桜木を気遣って知らないふりをしているのだ。





「本当、棗は花道には甘いよな」





毎日寝ている桜木の為に分かりやすく作っている授業ノートを渡す2人のやり取りを見て、野間はポツリと呟き、全員何度も頷く。





いやる2人


(花道、そのノート見せろよ)

(ふん!
これは天才用に作ってくれた家宝だそ、誰が貸すか!)

(じゃあちゃんと勉強しろよな、赤点の天才)



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