想い人の兄≒ゴリラ
体育館に行けば騒ぎを聞きつけてきた他の部活の部員たちがコートを囲んでおり、歓声やら笑いやらが聞こえてくる。
身長は160超えてはいるがそれでも周りの巨大な壁にコート内の様子は中々伺えない。
(くそ、水戸たちは何処にいるんだよー!!)
目の前の学ランに心の内で悪たれついていると、棗の体は急に引っ張られて人ごみの中に容易に入っていく。
簡単に通れるのは、先導するかのように前を歩く流川の存在が理由。
『ありがとう、流川……あ、桜木!』
漸く見えた先には学ランの上着を脱いだ桜木と……
『え、ゴリラ?』
「……」
桜木よりも身長が高く、ガタイも大きい青年。
あれで高校生かと思いたくなるくらいに高校生に見えない。
だが実力は誰が見ても相当なもので、初心者の桜木は足を出したりと様々な珍行為を見せて周りを笑わす。
「醜い」
溢すように言った流川の言葉にも苦笑しか出ず、勝負の行方を黙って見据える。
そして体育館にやって来た噂の晴子の話により、彼が彼女の兄だということを知って誰もが驚愕。
当然棗だってそうだった。
可愛い系統の晴子に対してゴリラにしか見えない男が兄だなんて誰が信じられようか。
勝負はゴリラもとい赤木剛憲の強烈なダンクにより、赤木は8点目を迎えた。
未だに桜木はポイントなし。
当たり前だが。
ボールに触れることも出来ずあっさりと抜かれた桜木は、赤木や気に入らない流川、晴子にフられたことにより怒りのボルテージは上がり赤木をもの凄い速さで追いかけた。
『桜木は足だけは速いんだよね』
「……」
だが途中で転びかけた桜木は夢中で赤木の服を掴み、2人共転んだ。
その瞬間、棗の視界は流川の大きな手によって遮られてしまった。
少しの沈黙からどっと体育館内が笑いで広がり、何がどうなったのかと気になって視界を阻む手を退かそうとするが力の差で剥がれない。
『ちょっと、見えないんだけど!!』
「…見なくていい」
『キャプテンの悲鳴も聞こえたし何かあったんでしょ、離せー!!』
パッと手が離れた時には何が起こったのか分からず、すまんと謝っている桜木と顔を赤くさせている赤木の姿しか見えない。
ギロリと見上げて睨めば素知らぬ顔をする流川。
勝負の結果。
かなりルール破りの勝負だったが、桜木の赤木を巻き込んだダンクが決まって桜木の勝利となった。
見事なディフェンスと強烈なダンクを目の当たりにして満足した棗だったが、1つ気になることがあった。
遮断された一世界
(ねぇ流川、赤木さんに何があったの?)
(……)
(おい!)
結局流川は教えてくれず、後日水戸に聞いたところ彼らにも知らないほうが良いこともあると言われて分からずじまいとなった。
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