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寝起きは注意





放課後。



今日も退屈な日々を送ったな、と散り散りになっていくクラスメイト達に挨拶を交わしながら思い、ぐっと伸びをして大きく息を吐く。



水戸たちが桜木の様子を見に行っているだろうと考え、自分も合流しようと席を立とうとイスを引く。





『……まだ寝てる』





こちらに顔を向け、しかも涎まで垂らして眠っているルカワ。




対して興味はなかったが、クラスメイト(女子)からの話で中学の時に富ケ丘中でバスケットをやって有名なのを聞いた棗。

放課後になったというのに大丈夫なのかと不本意にも心配になった。





『ルカワ、ルカワー』





遠くから声を掛けてみるが全く反応はなく、控えめに今度は肩をつついてみる。


だがそれも全く意味はなく、涎が机に広がっていくだけ。

ここまで寝られるのがある意味凄いなと思った。





ダメなら放置していけばいいのだが何故かそれが出来ず、困り果てていると……

突然開いた切れ長の目がバチリと合った。





『あ、起きた』


「……何人たりとも俺の眠りを妨げる奴は許さん」


『は?』





寝起きが最悪なのか威圧的な目に見据えられ、棗は自分の時計を指さして何を言っているだとばかりの顔で、

他の人間だったらおののくはずがあっさりと言葉を返す。





『ルカワ、眠っているのはいいけどもう放課後』


「……む」





棗の時計から教室の時計に目を移したルカワは、少しの沈黙の後棗の方に向き直った、





「……悪い」





学校が終わったことに漸く脳が追いついたのかルカワはそう呟き、礼を言われているのだと読み取るとどういたしまして、と笑う。




それからルカワは机から入部届とペンを取り出して何かを書き始めた。

男子バスケットという文字を見て彼がやはりハルコさんの片思い人だということを再確認。




高宮たちの話によると、あの桜木のパンチや頭突きを食らって立っていたらしい。


黙って書いているこの存在は只者ではないかもしれないと内心感心しながら少し観察してみることに。





(ルカワ――流川楓、ねぇ……)





――ふと棗はあることを思い出す。





『ねぇ、流川』


「ん」





手を動かすのを止めないで返事をする流川。





『昨日さ、屋上で何か落ちてなかった?』


「何かって?」


『フィ……』





棗の言葉は最後まで言えず、突然興奮気味に入ってきた男子たちの言葉で遮られてしまった。

くそ、人が話してるっていうのに!!





「おい、今体育館で面白いことやってるぜ!
何かバスケ部のキャプテンと、7組の桜木君が勝負してんだってさ!!」



『何ですって!?』



「……」





思わぬ男子の情報に勢いのあまりに立ちあがった。


詰め寄って話を聞いてみれば本当に体育館で勝負をしているらしく、面白そうだからと教室に残っていた人たちはバタバタと出て行った。






――静けさが戻った教室には流川と棗しかいない。





桜木とバスケ部のキャプテンが勝負をしている――それは棗に好奇心を煽る話だった。





『バスケなんかアイツしたことないのに……』





これは行かなくては!



思った後の棗の行動は凄まじいくらいに早く、荷物を半分乱雑に書き込むように入れて忘れ物がないか確認してダッシュの準備をする。






だが。







「待て、由利棗」


『ぐえっ』





背を向けた瞬間に後ろから襟が掴まれ、首が絞まった。


カエルが潰れたような声が咄嗟に出てしまったがそんなことは気にしていられず、指を入れて気道を確保すると何をするんだと睨みを利かせて振り返る。





『な、何するんだよ!
さっき言ってたことはまた次に……え……?』





視界いっぱいに見えたのは白い筒状の物体。

あまりの近さにより目になってしまったが、見覚えのあるものに目を丸くさせた。



流川の指3本に挟まれているものは、棗が懸命に探していた――あの大事なフィルムだった。





「アンタが言ってるの、コレだろ」


『あ……なん、で?』


「屋上出るときに拾った」


『やっぱり、屋上……』





棗ビジョンではそれは神々しく輝いており、早く手に収めてしまいたいがフルフルと手が震えた。
両手は空に伸ばされたままで、

流川は固まっている棗にフィルムを投げて寄越した。





『あ、ありがとう!
助かったー、生きた心地がしなかったんだよね!』


「……変な奴」


『あなたに言われたくない』





流川は昨日の内に拾ったフィルムを渡そうとしたらしいが、棗が桜木の嘆きの声に意識がそっちに行ってしまったせいで渡しそびれてしまったらしい。



ちなみに朝の内に渡さなかったのは、睡眠を優先したとのこと。





『そう言えば、流川は私の名前知ってたんだね』


「……まぁ」


『……はっ!
こうしてはいられなかった、桜木とバスケ部のキャプテンの勝負!!
じゃあね流川、またあし……た?』





もう用は済んだだろうと再び体育館に急ごうと背を向けたが、今度は制服の袖を後ろから掴まれてしまった。


今度は何だと振り返れば彼は席を立ち、棗を掴んだまま教室を出た。





『あ、あのちょっと流川?』


「フィルムの礼に、一緒に来い」


『え?れ、礼ってちょっと流川?』





何度手を振り払おうとしたりしたが無駄に終わる。





女子から大人気の彼と一緒にいれば被害に遭うのは自分。

桜木の騒ぎで人がほとんどいないことに深々と感謝した。






拒否権ナシですか?


(た、体育館が近い……離せってばー!)

(……)



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あきゅろす。
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