濃ゆい1日
『……あれ』
放課後になり水戸たちと帰る為いそいそと片付けの準備をしていると、
棗は愛用しているカメラのフィルムが1つ足りないことに気づいた。
貴重な残りのフィルムがないのは写真好きの棗には死活問題であり、でも焦りは表に出さずに何処に落としたのかと脳をフルに稼働して考える。
そして辿り着いたのは先程サボっていた屋上ではないのかということ。
思ったことは直ぐに行動する性格故、鞄を持って、気持ちは焦っているがキビキビとして足取りで教室を後にした。
『そう言えば水戸たちがいないな』
ボソリと呟きながら階段を数段上っていると――下りてくる人の気配を感じて見上げた。
そこにいたのは先程会った長身の青年だった。
『「あ」』
咄嗟に言葉が出たのか一単語が口から零れ、
青年は思い出したように目を見開き、棗は血みどろの頭の青年を見て顔をひきつらせた。
『あの……血が凄いけど、平気?』
「……別に」
まぁ立っているからには平気だと思うけど、と言いかけたが、どう見ても平気には見えない。
そう思うや否や鞄からまだ使っていないタオルを取り出し、学ランの袖を掴んで青年を無理やり屈ませて傷口に押し当てる。
「おい…」
『うるさい、このままじゃ貧血で病院行く前に倒れる。
目閉じてくれる?
ったく、身長高すぎで首が疲れるや』
文句を垂れながら棗は顔に染まる赤を拭っていき、傷口であろう場所を見つけるとそこをさっきより丁寧に押さえるように当てる。
煩わしいと言いたげな青年だったが、あまりの眼光に負けて溜息を小さく漏らす。
『血は少しすれば止まると思うけど、病院行ってね』
じゃ、と青年を開放すると棗は立ち上がって階段を上る。
「待て」
『ん?』
上から声が聞こえるなと思っていると後ろから呼び止められ、振り返ればタオルを頭に添えた青年がこちらを見上げていた。
何かと青年に耳を傾けていると――
「完璧に嫌われたぁぁぁ!!
もう嫌だ!この世に神も仏もあるもんかぁぁ!!」
『え、桜木?』
遮るように聞こえた友人の声に棗の意識は青年から一気に外れ、悲しみ交じりのその叫びに何かあったのかと好奇心を煽られた。
『ご、ごめん、緊急な私用が出来た!
タオルのことは気にしなくていいから、じゃ!』
有無を言わさずに棗は階段を駆け上がり、開いたドアの先を見据えた。
目の前に広がったのは号泣しながら屋上の手すりに手をかけて身投げを図る桜木と、
それを懸命に止めようとする水戸たちの姿。
状況についていけなくて呆然としていると、
棗に気づいた水戸がヘルプを頼んだ。
「棗、コイツを止めてくれ!」
「晴子さんがぁぁぁ!!」
「大丈夫だって花道、晴子ちゃんも勘違いだって分かるって!」
『……』
4人がかりなのに苦労している様子を見た棗は徐に首に掛かるカメラに手を伸ばし、その光景をフィルムに収めた。
真っ赤な血と最短失恋?
(晴子さんが、俺のこと大嫌いだってぇぇぇ!!)
(ハルコさんって誰よ)
(とりあえず手を貸してくれって!!)
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