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背中合わせ






本日快晴、空は雲一つない。

昼の温かい日差しを受けながら、棗は弁当を傍らにスケッチブックに絵を描いていた。




本来なら1人で静かに描いているはずだが、最近は大きな黒猫も一緒にいた。


視線を感じて目だけ横にずらせば、弁当をもくもくと食べながらも棗の作業を穴が開くくらいに見ている流川。


ちなみに彼が食べている弁当はせがんで作って貰った棗お手製。


いつから黒猫を飼うようになった……?




ただ今描いているのは先日の試合の時の記憶に残った1シーン。





『あのさ……そんなに見られると困るんだけど』


「何故どあほうを描く」





さっきまでは俺を描いていただろうと言いたげな顔を向ける流川。



確かに屋上にやってくるまでは彼のダンクを描いていたが、本人の前で描くのは気が引けたのでそれを中断して桜木の最後のレイアップに手を付けたのだ。





『本人に見られてたら恥ずかしいでしょうが』

「俺は気にしねぇ」

『……はぁ』





まぁ、流川の絵は後は細かい周りだからいいか。


そう考えた棗は小さく溜息をついてから桜木の絵から流川の絵に戻し、仕上げにかかる。


モノクロの世界に描かれる姿は、まるでその場面をそっくりそのまま持ち出したような出来。





『よっと』

「おい…」





お互い弁当も食べ終わって片付けを済まし、棗はふと何かを考え着いたようで小さな動きを示す。


同じ体勢が疲れたのか流川の広い背中に自分の背中を預けた。

大して気にする圧力ではなかったが、いきなりのことに眠気に襲われていた流川は現実に引き戻されたように目を丸くさせた。





「由利」


『ご希望に応えて上げるんだから、今だけ背もたれ代わりになってよ』


「……しょうがねぇ」





背中越しに伝わるぬくもり。


鳥の鳴き声とスケッチブックに滑る鉛筆の音だけが心地よく耳に囁き、流川はそのまま目を閉じた。










『出来たよ、流川……流川?』





完成した絵を持って満足気に微笑んだ棗は、ふと背中に重みを感じて顔だけ後ろを見遣る。


顔はよく見えないが、寝息を立てて深く呼吸をする流川を見て寝てしまったのだと分かって苦笑が零れた。





本当に何処でも寝られるんだなぁ……今朝なんか寝ながら自転車乗ってたみたいだし。





いつか事故を起こすんじゃないかと心配になり、毎日のように流川のことも考えるようなった自分に、ふと最近流川と関わるのが多くなったなと思い始めた。


弁当を提供してあげた時から作ってくれと頼まれるようになり、いつも顔を合わせれば何かと他愛ない話を交わすようになった。

近頃では流川ファンの自分への視線が痛いのも気のせいではないのだろうと苦笑。


彼とまともにやり取りが出来る女子は彩子と棗だけなのだから、周りのファンが面白く思わないのは致し方ないことだ。






『…それでも、このポジションは譲れないなぁ』






仙道もそうだが、流川のプレーを見て棗の興味は桜木以外にほんの少しだが傾いた。


だから興味(観察)対象の流川と同じクラスで(永久)隣同士、おまけにクラスの中で唯一心を開いてくれる位置にあることをこれほど嬉しく思ったことはなく、誰にも譲る気にはなれなかった。




いずれ自分のところに彼のファンに一味がやってくるだろう。

(クラスメイトの友人からの情報によると、例の親衛隊3人が棗の存在を一番よく思っていないらしい)




触れ合う背中が次第にぬくもりを増し、

体重で前屈みになる体を負けじと後ろにそらして既に夢の中に旅立っている流川にほんの少し体重をかける。

両方からの力は相殺されてその位置を保つ。



聞こえる寝息に感化され、棗は昼休み終了の予鈴を聞いても動くことなくゆっくり目を伏せて成り行きに身を任せた。


流川といるようになってから、サボり癖がついちゃったなぁ……。





遠くなる意識の中、最近の自分を振り返るが、満更でもないといったように穏やかな表情を浮かべた。






まどろみの中に


(いかん、もうすぐHRが始まる!
る、流川起きてー!)

(む……何人たりとも……)

(わぁぁ、寝ぼけてないでよー!
教室戻って早く練習に行こう!)

(……オキタ)

この日遅れて来た桜木は、バッシュを買ってテンションは絶好調だった。




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