憂鬱
陵南との試合後日。
水戸と大楠は放課後ふらふらと歩き、退屈していた。
桜木も女子からフられることもなくなり、彼らの楽しみがなくなっていたのだ。
「アイツ高校に入ってからペースが落ちてるよな、フられペースが。
こんなんじゃ中学の時の記録を更新出来ねぇぞ」
「アイツは今、バスケットにハマりつつあるからな。
漸く懸けるものが見つかったってところだな」
大楠はつまらなさそうに転がる空き缶を蹴飛ばし、水戸は何か見つけてみればと提案するが、自分はどうなのかと返されて返す言葉に迷った。
やっぱりな、という大楠はまたふらふらと歩き始めて空を見上げた。
「棗も正式にマネージャーになっちまったし、退屈だなぁ」
「アイツはカメラと絵と観察があるからな」
「何でも器用な人間ってのは退屈しなさそうで羨ましいぜ、本当」
中学の時から棗とずっとツルんできた桜木軍団。
この3年間一緒にいたが、彼女が何を考えているのかは未だに読めない。
桜木を見守りながらも自分のしたいことをやってのけてきた中学生活。
現に剣道でも全国レベルのトップに趣味とは言え上り詰めてしまっていた。
大楠には答えられなかったが、
今の自分にある何か……一瞬だが脳裏にうっすらと浮かんだものがあった。
由利棗や周りの変化。
高校に入学し、桜木がバスケットに関わりを持つようになってから自然と自分たちもそうだが棗も巻き込まれるようになった。
そして桜木や自分たちにしか興味を示さなかった彼女が、近頃その範囲を広げて来たのに気付いた。
特に先日の陵南との練習試合を見てから大きく変わった。
これは水戸の推測にすぎないが、桜木以外に興味を示したのはまずは超高校級のプレーを見せた陵南の仙道。
誰もが目を奪われたその姿に彼女が興味を持たないはずがないと思った。
そして、もう1人は流川。
桜木と何かと意地の張り合いが多い彼は自分たちの……いや、少々癪に障るがきっと自分たちよりも桜木の次に彼女に近い存在にある。
――それから棗を取り巻く人間関係を考えてみた。
桜木と棗はお互いに大事な親友だと思っており、棗は他に多少今日興味を持ち始めたにしろ桜木にしか今は興味が行っていない。
その棗に普段女子には全く無関心な流川が近くにいる。
レイアップシュートの時に見た彼女に送る視線や、マネージャーの勧誘の時の桜木との熱の入る争いを考慮すれば、確実に流川自身は気づいていないかもしれないが棗を慕っているだろう。
さらに言えば、先日の仙道の棗への試合中に送る視線や会話している時の表情を読み取れば、
きっと彼も棗を気に入ってしまっただろう。
その流川に晴子は片思いしており、そんな晴子に桜木は例え彼女が流川を思っていても淡い恋心を寄せている。
とんだ三角関係ならぬ四角関係、いや五角関係だ。
点と矢印を頭の中で結んでやれば思わず苦笑しか出なかった。
「面倒くさいことになりそうだな…いや、でも面白いかも…」
「洋平、どうした?」
「ん? 何でもねぇよ」
棗が正式にマネージャーとなり、インターハイ予選が始まればきっとまた他に彼女に惹かれる人間がさぞかし現れることだろう。
容姿端麗と言われているが、特別いいというわけでない彼女。
それでも彼女の取り巻く雰囲気や口調、分け隔てがない性格が自然と人を周りに寄せ付けてしまう。
これが無自覚となると、かなりの厄介人となる。
「あーあ、これからどうなんだかなぁ」
棗が誰かの元に収まった時、周りはどうなってしまうのかと頭に浮かび、やはり彼女は厄介な存在だと嘆いて空を仰いだ。
水戸洋平の憂鬱
(なんで俺がそんなこと分かるかって?)
(そんな彼女に、俺も毒されてたからだよ)
(今はもう違うけどな)
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