Tip off
試合は湘北ボールから始まる。
だが彩子は去年は必ず赤木が勝っていたジャンプボールがほぼ互角だということに心配になった。
魚住の凄まじい気迫に安田たちは圧倒され、ボールは瞬く間に陵南ボールとなった。
「おいオヤジ、俺の出番はまだか?
ピンチだぞ」
『まだ始まったばかりでしょ、桜木』
安西の二重顎をタプタプさせる桜木を直ぐに牽制する棗。
そして仙道にボールが回れば館内はざわつき、彼の存在が一目置かれていることを物語っていた。
そんな彼に着くのは流川だった。
彦一は赤木と魚住の因縁の対決や、噂の流川を見て要チェックや!とマル秘ノートに走らせるペンの動きが止まらない。
試合早々に魚住は木暮、流川、赤木のシュートを3連続見事なブロックで押さえてみせた。
「さぁこの試合、100点取るぞ!」
「マズい、マズいぞオヤジ! ボス猿の奴!」
「オヤジじゃないでしょ、ちゃんと安西先生って言いなさい!」
「マズいっすよ彩子さん、大ピンチ!」
『なんで彩子先輩には敬語ちゃんと使ってるのよ』
桜木は流れが陵南に傾きつつある試合を見て、自分の出番だ試合がまだ2分しか経っていないのにベンチから立ち上がった。
それを彩子や他のベンチたちは必死で抑え込む。
『……桜木』
「だ、だってよ棗」
『秘密兵器っていうのがこんなに早く出たら秘密にならないでしょ』
「む……そ、そうか」
『うんうん、いいとこ最後に見せるのが天才というものだ』
「だよなぁー、だははは!!
…オメェらボス猿なんかに負けてるんじゃねぇ!
ガンガン行けー、ガンガン!!」
肩をポンポンと叩かれた桜木は落ち着いたが直ぐに怒鳴り、何とかベンチに収まる。
上から見ていた水戸たちは桜木がまたダダこねているやら、試合に入ったところで何も出来やしないと笑い飛ばしていた。
それを耳に入れた棗は本当に何しに来たのかとツッコミたくなった。
魚住の3連続ブロックを見たせいか、安田は体が完全に委縮してしまっていた。
またしても桜木が自分の出番だと騒いでいたが、桜木を彩子に任せた棗は試合全体を眺めてみた。
確かに県ベスト4の強豪をいざ相手にすると、いつもの練習時よりも一段と動きが鈍い気がした。
しかし、
「大丈夫よ、湘北にはちょっとやそっとじゃ動じない図太い男がいるでしょ」
『鈍いとも言いますけどね、彩子さん』
「そうね」
彩子と棗の視線には、魚住と中で勝負をしようとしてボールをくれと手を挙げる流川の姿。
「1年坊主が!」
安田が投げたボールは……流川に渡らなかった。
「さぁ、行こうか」
『おぉー、仙道さん!』
「アンタ何感心してるのよ、もう!」
流川の前に現れてボールを取った仙道。
速い動きに棗は思わず声が出てしまい、彩子にすかさず叱られた。
目を丸くさせていた棗の方に目を向けた仙道は、悠々と試合中に似合わない笑みを浮かべた。
「にゃろう……」
仙道の絶妙なパスにより陵南の得点はさらに入った。
「可愛いよね、棗ちゃん」
流川は擦れ違う際、仙道が言った言葉に思わず振り返った。
仙道が見る先には彩子と話をしている棗がおり、華があっていいなぁと呟く。
「“誰よりも負けず嫌いで、滅茶苦茶ところもある。
そしてどんどん強くなって頼もしくなる奴”」
無視しようとしたが次に耳に入った言葉で動作を止めた。
「彼女が期限付きのマネージャーを受けた理由は、コイツを近くで見たかったらしいな」
「……」
「その様子じゃ、彼女が言う奴はアンタじゃないようだな」
表情が若干険しくなった流川を見逃さなかった仙道は、いつもの柔らかい笑みを浮かべて試合に集中した。
流川は無意識に拳を握り、小さく舌打ちをした。
話題の棗はそんな2人のやり取りなど全く気付くこともなく、県下ベスト4の陵南の存在を実際に見てその強さをしみじみと感じていた。
(陵南はキャプテンが魚住さんだけど、仙道さんが試合の要として存在している……バランスのいいチームだなぁ。
……あれ、そう言えば桜木は?)
顎に手を当てて考えている棗は、
集中しすぎていたのか桜木がいなくなっていることに気づかず、ホイッスルを聞いてハッとする。
コートを見れば何も変化はない。
「テクニカルファール」
『さ、桜木ぃぃぃ!!』
点差30点と言った田岡に非礼行為をした桜木にテクニカルファールが下され、赤木の拳が桜木の頭に落ちた。
どっと館内が笑いに包まれる中、棗は必死で桜木に憤慨する田岡に頭を下げて詫びた。(笑いたいのを必死に押し込めて)
波乱の試合
(あぁ…棗の奴必死だな)
(保護者も大変だな)
(にしても笑いが止まんねぇ、ギャハハッ!!)
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