お咎めなし
「き、君は?」
『初めまして、湘北バスケ部マネージャーの…と言っても今日で終わりなんですけど由利棗と言います。
実はここに来るときに迷子になって、仙道さんに案内して貰ったんです』
「せ、仙道が道案内?」
『本当に助かりました、このままだとゴリ…部員の人にどやされたので』
ほっとしたように微笑む棗に呆然と仙道と交互に見遣るも、さらに怒る気がなくなったのかもう気にしてないと田岡は言葉を返す。
それを聞くと棗は良かったですね、と仙道に笑いかけ、そうだねとのんびりと返事を返した。
ここの間だけ時間の流れが遅く見えたのは気のせいではない。
「じゃあまたね、棗ちゃん」
『はい』
「棗ー!!」
仙道はユニフォームを彦一から受け取ると着替え始め、棗は湘北の元に向かう。
勿論最初に行く場所は……
「由利……今まで何をしていた?」
腕を組んでゴリ……額に青筋を立てている赤木。
痴漢じゃなかったことに安堵した彩子は助けを求める棗の視線をあえて気づかないふりをし、他の部員に向けても同様にかわされてしまった。
数拍置いてから、棗は仕方ないと腹を括って鬼のような赤木を見上げて言った。
『……寝坊です。すいませんでした』
気まずそうに後頭部を掻きながら素直に謝り、俯き気味の棗に降って来たのはバカもんという言葉と大きな手。
「全く、お前がいないとウチの問題児が手に負えん」
赤木はそれから早く着替えて来いと言う言葉をかけてコートに向かい、軽く叩かれた手の力加減にきょとんと目を丸くさせると直ぐに着替えに向かった。
その途中に流川と目が合い、呑気におはようと言う棗にデコピン一発額に入れた。
『痛い!』
「どあほう」
ぐうの音も出ない棗は流川の背を見送り、部員たちに挨拶をしながら彩子と元につけば、彼女はニヤニヤと怪しい笑みを浮かべていた。
別室で何を笑っているんだと聞くと、
「みんなアンタがいなくて心配してたのよ。
赤木先輩も、口ではああ言ってるけどね」
『そうなんですか……?』
「流川もアンタがいない間、桜木花道と同じくらいに落ち着きがなかったのよ」
『流川が……?』
髪をまとめ終えた棗はコートにいる赤木と流川に視線を送る。
あ、流川は背番号11なんだ。
いつもの藍色のジャージを着た棗は彩子に連れられて控え室を出て、体育館を眺めた。
ところどころには記者らしき人物が上の方で座っており、誰がお目当てなのかと首を傾げた。
陵南の方に目を向ければ、着替え終えた仙道に魚住は声を掛けていた。
「仙道、アップの時間はねぇぞ。
直ぐに出て貰うからな」
「大丈夫ですよ、魚住さん。
走って来たから」
仙道は問題ないと言った顔をして立ち上がる。
「さっ、行こうか」
赤木は呆然と見ている他のスタメンたちに何をしているんだと声を掛けて歩き出す。
「……あれ?」
ふと彩子は棗を見て疑問に思った。
「棗、アンタ仙道と走って来たの?」
『そうですよ?
仙道さんったら時間が危ないっていうのにまだのんびり歩いてるので焦っちゃいましたよ』
だから今は少し体が温まってますねぇ、とTシャツの襟元を摘まんでパタパタと風を送る棗。
あの仙道と走って来て体が温まる程度。
ただのマネージャーだったら汗の一つや二つはかく。
目の前の少女は、意外にも体力があるのかもしれないと彩子は腕を組んで考えた。
一方でコートの中心では桜木が仙道にお前は俺が倒すと宣戦布告をし、それを仙道はよろしく、と言って握手をした。
「それと1つ言っておくが、棗に半径2メートル以内近づくの禁止だ!」
一緒に来たことが気に入らなかったのか、桜木は握手をしながらキッと仙道を見据えた。
湧き上がる歓声
(よ、要チェックや!)
(あれ、桜木何処?
試合始まるから戻っておいでー)
(おうよ!)
(……面白い)
瞬時にベンチに戻った桜木は棗にユニフォーム貰えたんだね、と褒められて得意げに笑っていた。
それを見た仙道は不敵に笑った。
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