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気合十分な前日







棗がバスケ部の期間限定マネージャーとなってから数日。



彩子の指導の下、その仕事のこなす速さは驚異的でかなり慣れているようにも思えた。

時間があるときはカメラを撮って桜木にフォーム確認をさせたりもしていた。





「ねぇ棗、もしかしてマネージャーの経験あるの?」


『いやだなぁ、彩子先輩。
私は素人ですって、彩子先輩の教えが上手いんですよ』


「もー、褒めたって何も出ないぞ!」





大きめのTシャツに藍色のジャージを穿き、長い髪を高くまとめている棗の髪をぐしゃぐしゃと乱して笑うが、実際は満更でもなさそうな彩子。





陵南との練習試合はついに明日となった湘北バスケ部。

明日が近づく度に部員たちの気は引き締まり、この日は特に練習のこなし具合はみんな絶好調だった。

桜木のレイアップシュートの確率も上がっていた。






「足を止めるな!」






赤木も新チームでの最初の試合のせいかいつもより気合が入っており、彩子の隣でキャプテンとしての彼の存在に尊敬の念を抱いた。


練習は勢いついたまま日が暮れるまで続いた。






『ナイスシュート、桜木!』


「凄いじゃない桜木花道!」


「ぬへへへ」


「レイアップ、もう5本に4本入るようになったわね。
その上達の訳は?」





桜木は晴子との練習を思い出したのか顔がこれでもかと綻び、事情を知っている棗はふと笑みが零れた。





「いやぁ彩子さん、ぬははは!
なんせ天才ですから!
“置いて来る”ですよ、“置いて来る”」


「置いて来る?」





首を傾げる彩子を余所に、桜木は晴子の為にと明日への意気込みがますます入った。





「さぁ声出していくぞー!!」


「「キャーッ!!」」


(いや、オメェらじゃなくてな……)





赤木の言葉にさらに声を高く上げたのは部員ではなく流川目当ての礼の3人だった。

見当違いなことに赤木は顔を歪ませた。



彼女たちは流川楓親衛隊らしく、明日は応援に行くと言い放った。





「頑張って流川くーん!」





キャーキャー騒ぎだす親衛隊に赤木と桜木はイライラを増幅させ、さらにミーハー嫌いな棗は怒りを通り越して呆れ果てていた。





「ちっ、何なんだ……」


「何とかしろ…!」


「はぁ……」





お茶を入れた棗はイスに座る安西に渡し、練習風景をのんびりと眺める。





「先生、この調子なら明日はいい試合が出来るかもしれませんね」


「ほっほっほっ」





安西は彩子の言葉に穏やかに笑うだけだった。






「ところで棗君、明日でマネージャーの期間が終了しますね」


『あ、そうですね』





お茶を啜る安西は練習を見ながら勿体ないですね、と言葉を紡ぐ。





「君のような機転が利く人材がいれば、彩子君にも部員たちにも大きな力となるのに」


『私はそんな大層な人間じゃないですよ、安西先生』






オーバーですよと笑う棗だが、実際彼女の働きぶりは部に大きな力となっていた。




彩子の手助けには勿論なり、部員たちも行動の速さは評価していた。

そして一部ではあの桜木の保護者を努めるだけのことはあると納得している者も。






『この一週間彩子先輩の手伝いをしてマネージャーという仕事を担ってきましたが、凄く有意義なものでした。
大変な時もありましたけど、すごく楽しかったです。
皆さんには感謝してもしきれないですよ』


「棗……」


『明日からのことは、マネージャーを引き受けた時から赤木さんと安西先生のご判断にお任せしています。

私はそれに従うだけです』


「ほっほっほっ」






そう微笑むと棗は桜木に目を向け、安西は笑うだけだった。








――






練習が終わり、赤木は全員に明日の集合は8時30分ということを伝える。

勿論遅刻は厳禁。




1年のモップ掛けが終わり、桜木は早く着替えて棗のところに向かおうとするが、赤木に呼び止められて叶わなくなった。





『大丈夫だよ桜木、私のことは気にしなくていいから赤木さんと練習してきな』


「だけどよ……」


『いーって、明日の練習で倒したい相手がいるんでしょ?
その為にも赤木さんと練習して明日に臨みなよ、ね?』






倒したい相手と聞いて桜木は反応し、今度昼を奢るということを取り決めて1人体育館残った。






さっさと着替えを澄ました棗は本日の財布の中身を確認しながら学校を後にする。


……と当初の予定ではそうなるはずだった。









『何故こうなった』

「何が?」





いつもより通学路の視点が高く見え、前に広い背中が見える。

棗の両手は鍛えられた肩を掴んでいた。






『歩いて帰れるって言ったのに』

「知らねぇ」






経緯はこうだった。



校門のところに差し掛かったところで目の前に自転車の乗った流川が現れ、有無を言わさずに後ろに乗れと言われてしまった。

遠慮すると言ったが全く聞く耳持っておらず、

暫し沈黙が広がると棗は重いからねと半分諦めの声を溢して流川の自転車の後ろに立つ。



バランス感覚を要するが、元々器用な棗には造作もなく、満足気に「よし」と呟いた流川は自転車を走らせる。







肩に感じるぬくもり


(流川、明日頑張ってね)

(気合入りまくり)

(ふふっ)

(……)

(わぁっ!?危ないから寝ないでよー!!)




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あきゅろす。
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