単純王
翌朝。
くあっと欠伸をしながら登校して来た棗。
教室に向かっていると、自分の先を大笑いしながら歩いてくる赤い髪。
『桜木……?』
「棗!」
呆然とする姿を捉えると表情がさらに明るくなり、大股でこちらに近づいてくる。
あっと思った時にはグローブのような大きな手に肩を掴まれ、聞いてくれよと有無を言わさずに話を始める。
どうやら早朝にレイアップシュートの練習をしていたらしく、たまたまそこに通り掛かった晴子と一緒に練習をし、シュートが漸く1本だが成功したらしい。
周りに花がこれでもかと咲いている桜木に、棗は思わず自分のことのように喜んだ。
「やっぱ早朝にやるスポーツはいいねぇ!
棗は細いが、スポーツやるべきだ!」
『あ、あはは……そうかな』
「そうそう!」
『でも良かったね、レイアップが入って』
「おう! この天才に不可能はない、ぬぁはは!!」
桜木はそのまま廊下を歩いて行ってしまい、その奥で2人の様子を見ていた水戸たちと合流。
『それにしても、偶然会ったにしろあそこまで幸せに浸れるとはね』
「単純の極地だな」
「うーん、単純王だ」
高宮の言葉に棗は数回頷き、誰もが一体今日はどうしたんだろうと思って見ている桜木の背中を見送った。
……その一方で。
顔が緩みに緩みまくっている桜木とは対に、棗の隣の席の住人は登校していた時から大層機嫌が悪いように見えた。
当たり前のように挨拶を交わし、いつもと何かが違うことに気になって訊いてみることに。
『流川、今日は機嫌が悪そうだね』
「別に」
『顔が不満でいっぱいって主張してる』
「……」
観察が趣味の棗を誤魔化せるわけがない流川は、主語と述語が飛び飛びだったがポツリ、ポツリと話し始めた。
早朝にバスケの練習をしに行ったが、桜木と晴子がレイアップの練習をしていた為に自分の練習が出来なかったらしい。
棗は話をして気が済んだのか寝る体勢に入った流川を頬杖付いて笑い、バスケが本当に好きなんだと感心した。
『今日は桜木の練習見に行くんだ。流川も頑張ってね』
「……」
少し顔を上げた流川は少ししてからコクリと頷き、そのまま腕を枕にして寝てしまった。
大きな前進
(桜木のレイアップかぁ……)
(……)
その後の水戸の話によると、桜木は授業中ずっと晴子の夢を見て寝ていたらしい。
(やっぱ単純王だ)
(だな!)
その日の部活では、棗は初めて湘北名物のアメと鞭を見て単純な桜木相手なら効果は絶大だと思った。
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