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「はぁー……、だりぃ」


 放課後。
 彰は誰もいなくなった教室を箒で掃きながら呟いた。最近、溜め息ばかり吐いている気がする。


「……」


 吉田は彰の予想通りに、特に何を喋るでもなく、黙々と作業をしている。


「早く終わらせて帰ろうぜ」

「……」


 無言の吉田。彰の投げかけは、ただの独り言に終わってしまった。

 彰は、何だか無性に新橋や斉藤が恋しくなった。


(コミュニケーションが取れない……)


 気まずい。

 彰は、何故こんな目に、と途方に暮れる。
 窓の外から校庭を見下ろしてみると、陸上部やサッカー部が練習に励んでいた。

 下校する生徒はもうほとんどいなく、残っているのは部活がある生徒達だけ。


(新橋、あいつまだ待ってんのかな……?)


 彰は、不意に友人を思い出す。

 彰は中学の時からずっと新橋と一緒に帰っていたのだが、果たして新橋は自分のことを待っているだろうか。


(あいつ、待ってるって言ってたけど……)


 元々新橋は自由気ままな性格だし、せっかちなところもある。

 それだけに、彰は新橋が待ってくれているのだろうかと、不安になった。


(多分、もう帰ってんな)


 自分の中で結論を出し、彰は再び箒を動かす。


 と、不意に視線を感じて彰は振り返った。

 しかし、そこには吉田が淡々と作業している姿があるだけで、彰は首を傾げる。


「?」


(今、確かに視線を感じたような……気のせいか?)


 不思議に思い首を傾げながらも、彰は特に気にすることもなく、再び掃除に専念した。


「──そういえば、この間ぶつかってごめんな」


 彰は不意に入学式のことを思い出し、ぽつりと呟く。

 すると、吉田は作業する手を止めた。

 それが、彰の話を聞いていることを知らせることに思えて、彰は言葉を続ける。


「ほら、入学式ん時の。吉田のこと倒しちゃったじゃん?」


 その時のことを思い出し、思わず苦笑した。


「しかもあの時けっこう注目浴びちゃったしさ。ほんとゴメン」


 あの時を思い出したら、顔から火が出そうだ。
 何だってあんなドジをしてしまったのかと、自分を叱責せずにはいられない。

 しかも、吉田が無言だ。

 さっきからずっと黙っている。

 これは怒っているのか許してくれないのか。
 どちらにせよ、良くは思われていないに違いない。

 彰は、今更自分の発言を後悔し始めた。


(まずい。むしかえすんじゃなかったか)


 失敗したと思い、気まずい思いで吉田を見る。
 吉田はこっちを向いているが、彰のことを見ているのかよく判らなかった。
 何しろ、丸いビン底眼鏡が吉田の目元を隠しているもので。






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