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「おー、相川同クラじゃん! いえー!」
「またお前と同じクラスかよ」
教室に入った途端、彰に抱き付いて来たのは、去年もクラスが一緒だった斎藤 悠希(さいとう ゆうき)だった。
「いやあ、しかしまぁアレだな! このクラスはノリの良い奴らが集まったな!」
斎藤は教室内をぐるりと見回して言う。
一番ノリが良くてうるさいのはお前だ、と彰は言ってやりたくなったが、そこは軽く流すだけにした。
「お?」
不意に、斎藤が教室のドアの方を向く。つられてそっちを見ると、そこには丁度教室に入ってきた吉田の姿があった。
長身なのに猫背。もっさりとした黒髪はボサボサで、相変わらず暗くて陰鬱としたオーラを放っている姿。
「うおー。吉田じゃん。初めて近くで見たけど、やっぱアイツ、暗いな。そしてキモいな。
何というか、全力で根暗って感じ」
そう言って面白そうに笑う斎藤は、彰にべったりとくっつきながら「な、話し掛けてみようぜ」とイタズラっ子の様に小声で持ちかけてきた。
「はあ!? お前何言ってんだよっ」
相変わらず突拍子もない斎藤に、驚きと呆れで声に力が入る。
「大体、吉田だって困るだろ。お前みたいなバカに話し掛けられたら」
「いいじゃーん。吉田も、早くクラスに馴染んだ方がいーと思うし、その第一歩を手伝ってやんだよ。
つうか相川、テメー今俺のことバカっつったろ」
ヒソヒソと小さく会話を交わす二人は、背後にぬっと現れた男子生徒に気が付かなか
った。
斎藤が不意に顔を上げて、「うおっ!?」と驚いた様に後ずさった。
「び、びびったぁー。……何だ、藤原(ふじわら)か」
彰もそちらを見ると、背の高い生徒がじっとこちらを見下ろす様にして立っていた。
ブラウンがかった柔らかそうな髪に、まるで海の様に綺麗なブルーグレイの瞳。
どこかのハーフだろうか、と思いながら、凍るような美貌に彰は思わず顎を引いた。
(ふじわら……?)
初めて見るその生徒は、まるで彰など見ていなく、その瞳はただ一人斎藤だけを見詰めている。
「──悠希。お前もC組だったんだな」
「まあなー。藤原も同クラかよ、うげ〜」
心地よいバリトンボイスに、斎藤は思いっきり嫌そうな声を出す。
(なんか、コイツは黙ってても女子に騒がれそうだな……)
綺麗にセットされた髪に、少し着崩した制服。
ぶっきらぼうに話す口調も、何だか藤原だとカッコよく思えるから悔しい。
「オイ斎藤」
彰が目だけを斎藤に向け誰何すると、斎藤はようやく彰が戸惑っていることに気が付いた。
「あ。相川はコイツと会ったことなかったっけ? コイツは俺の幼なじみの──」
「藤原 皇(こう)だ」
藤原は斎藤の言葉を途中で遮り、ようやく彰に視線を向ける。
何だかその目に鋭くキツいものを感じて、彰はひやりと背中が冷たくなった。
(イケメンて、怖いカオも迫力あるよなぁ)
そんなことを思いながら、じっと不機嫌を見詰める。
(怖ぇ……。何か睨まれてね? 俺)
彰はまるで蛇にらみに遭った蛙の様に、ビクビクと怯えてしまう。
元々彰は隙の無い完璧な美形というものが苦手で、特に藤原の様に鋭い雰囲気を持った男は、どう対応したら良いかわからなかったから、尚更だった。
そんな彰の心情を察した様に、斎藤が藤原に慌てて彰のことを紹介する。
「あ、えっと。コイツは相川彰。去年から同クラで、俺のダチ」
「よろしくー」
とりあえず人当たりの良い笑みを浮かべたが、藤原はそんな彰にちらりと目を向けるだけで、
「悠希、ちょっと来い」と斉藤の腕を引っ張り、離れて行ってしまった。
「あ、わ、わりい! 相川、またな!」
斉藤は、機嫌の悪そうな藤原にびくつきながらも、彰に手を振る。
途端に、更に藤原の整った顔が増々険悪に歪み、彰をきつく睨み付けてきた。
(う、うわ……)
何となくだが、あの二人の関係が読めた気がする。
さしずめ、藤原は斎藤のことを恋愛対象と
して想っているが、意外に鈍い斎藤がその気持ちに気付いていない、というところなのだろう。
(アイツも苦労してんだな)
あの手のタイプは大変そうだと、彰は明るく気さくな友人を思って苦笑する。
(ま、俺には関係ないけどなー)
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