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 学校から徒歩10分程の最寄りの本屋には、学校帰りだろう学生達が多く見られる。

 彰は吉田を連れて迷うことなく少年コミックのコーナーに足を運んだ。


「あった! これだよ、これ〜!」


 ずっと新刊が出るのが待ち遠しかった漫画を手に取り、満足げに笑う彰。

 そんな彰の幸せそうな顔をを見て、吉田も興味が湧いたのか「面白いの、これ?」と訊いてくる。


「うんっ。すっげー面白いよ! なんかさー、絵柄は派手じゃないけど、ストーリーがよく組み立てられてるし、読み応えがあんだよなー。
 敵キャラも、何か嫌いになれないし。こういう漫画って最近なかったからさー」


 真剣に話す彰だが、ふと吉田が無言で見つめているのに気が付いて、はっと口を閉じた。


「あ……、ごめん。俺、話し出すと止まんなくなっちゃって…」 

「大丈夫だよ。むしろ、相川君がそんな風に喋るところ見れて何か嬉しい」 

 
 気まずい思いで言った彰に、吉田は口元に笑みの形をつくる。


「嬉しい?」


 きょとんと首を傾げてオウム返しに訊くと、吉田は頷いた。


「僕と同じだなぁって。勝手だけど、ちょっと嬉しかった」


 おそらく、もっさりとした前髪とビン底眼鏡の下では、吉田はにこにこと笑っているんだろう。


「……」

「……あっ、ご、ごめん。何か気に障った?」

「いや、違くて」


 無言になった彰に、吉田は慌てて彰の顔を覗き込んでくる。
 彰はそうじゃないと笑って、長身の彼を見詰めた。


「吉田って、すげーいい奴だなって思って」


 正直に感想を告げると、吉田は戸惑ったように言う。


「ど、どうしたの、急に」

「いや。今までつるんできた奴にはいないタイプだなって思ってさ。みんな、大抵スルーだし」


 今までの友人達の反応を思い出しながら、彰はちょっとオタクの気が自分にはあるかもしれないな、と思った。

 多分、友達がいなかったらずっと漫画に埋もれていそうだし、それこそ吉田のようになっていたかもしれない。

 新たな可能性が発覚して、彰は改めて吉田とは気が合うな、と思った。


 もともと明るい性格をしている彰は、誰にでも人当たりが良いからか、好かれやすい。

 しかし、それが災いして、逆に親友というものができたことがなかった。

 新橋や斉藤も、仲は良いが彼らには彰よりももっと付き合いの深い友人達がいるし、彰も色んな人と仲が良いせいか、今までそんな人をつくる機会もなかった。

 いわゆる、浅く広くという友人関係。

 友達は多いが、一緒にいて心が落ち着くという人には、まだ出会ったことがない。

 それだけに、吉田の存在は彰にとって非常に居心地が良かった。

 こうして漫画を前に「どれにしようかな」と悩み、棚と睨めっこをしていても急かしたりしないし、元気な彰の性格とは対照的な、落ち着いた性格も好ましかった。

 まるで、磁石のようだ。違う性質の持つ者同士が引かれ合う。







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あきゅろす。
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