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「……エッチのテクがすごいとか?」
「えっ!?」
真剣な顔でさらりと凄いことを言う彰に、吉田は分かりやすいくらいに動揺して、耳を赤く染めた。
「い、いきなりどうしたのっ!?」
「実はすっごい口説き上手だったりして」
「相川君??」
ずいっと吉田に迫る彰の顔は怖いくらいに真面目で、「何で吉田が良くて、俺はダメなんだ……」とブツブツと呟き、黒いオーラを撒き散らしている。
「なあなあ、何で彼女ができたんだ?」
「え? いや、向こうから告白してきたから……」
「向こうから!?」
(よっぽどエッチが上手いのか!?)
もはや彰の頭の中には下半身の事情のことしかなく、他の可能性は考えられなくなっていた。
「そこまで凄いのか……」
圧倒された様に彰は呟く。
(どうしよう……やっぱりドーテイはダメなのか?? いや、でもアテもないし……)
勝手に沈没した彰に、吉田はおずおずと声をかけている。
「相川君? どうしたの?」
「いや、何でもねえよ……。
──……っと、もうこんな時間か」
時刻はもう六時を過ぎようとしていて、彰は驚く。つい話し込んでしまったようだ。
「悪い、遅くなっちまって。何か用事とかあった?」
「いや、大丈夫だよ。僕も楽しかったし」
「そうか」
何となく口元が緩んでしまう。この短時間、ずいぶんとリラックスして談話していたので、大分吉田に対する印象が変わった。
見た目と違って卑屈ではないし、意外と話も楽しい。
外見や柔らかい話し方のせいもあってか、気構えることもなく肩の力を抜ける。
(意外と居心地良いかも)
彰はへへっと笑って、照れ臭さを隠して立ち上がった。
「俺も、お前と話せて楽しかったよ」
よいしょと腰を上げながら笑う彰を、吉田は無言で見詰める。
そして、帰り支度を始める彰を見て、ハッとしたように言った。
「あ、相川君っ!」
「ん、何?」
その声の大きさに若干驚きながらも、振り返る彰。
「ま、また一緒に話そうね」
「? おう。てか、明日も掃除じゃん。ダルいから喋っちゃおうぜ」
にっと笑う彰に、吉田はまたボーッとした様な顔をする。……正確なことはわからないが。
「んじゃ、明日な。お疲れ」
「お、お疲れ……」
ヒラヒラと手を振り、教室を後にする彰。
その後ろ姿を、吉田はただじっと見詰めていた。
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