[携帯モード] [URL送信]

drrr
臨吉/さようなら池袋









 息を止めている。


 意気を潜めている。





 真夜中の正午を過ぎても、池袋は眠らない。看板のネオンが暗闇をぼんやりと顕わにする所為で、視界から消え去る事は叶わない。

 僕は臨也さんに見付からない為に、できうる限り暗がりへしゃがみ、両手で口元を綴じた。




 生きを鎮めている。


 行き場を無くしている。





 肺が痙攣し始め咽喉が酸素を求めて広がっても、目が霞み始めても………それでも、僕は【見つかってはいけない】。




――――しかし、生存本能が恐怖を上回り、口を放してしまった。


 空っぽの肺一杯に酸素を送り込み、その勢いのまま血液が身体をぐるぐると体内を駆け巡る。しゃがみこんでいても頭がフラつき、地面に手を付いて噎せる。

 血が沸騰したように熱い。その熱は押さえきれずに、ぶわりと体外へと流れ出た。夏でもないのに、全身が汗だくだった。




「ねぇ、三好くん」




 息が止まる。

 意味が無くなる。



 ぎょっとして顔を上げると、臨也さんが目と口許を歪めてこちらを見下ろしていた。
 つぅ、と目蓋の上から汗が流れて睫毛にひっかかる。瞬きの間に雫となって、地面に吸い込まれていった。



「何でそんなに嫌がるんだい?昔の君だったら、いつもそうしていた事じゃないのかな?」


 【いまさら】、と臨也さんの唇が動くのを見て、耳を塞ぐ。そんな僕の手を優しく強引に引き剥がして、臨也さんは鼓膜を直接震わせるように云う。



「ここ(池袋)を離れたくないなんて我が儘、叶うわけないじゃない」



 緋色の眸が、嘲笑う色を帯びた。それを目にして、僕は急激に寒さを覚えた。冷えた身体をどうにかしたくとも、手首を拘束されている。



「それとも何だい?俺が本当に君を気に入ってるとでも思ってたのかな?だったらお生憎様だね」



 分かっている。

 判っている。

 解ってる。



 臨也さんは僕の反応が見たいだけなんだって。
 疵を作るだけの言葉で、どんなことが起こるのかって。



―――でも、納得なんか、出来ないんです、臨也さん。



 こみ上げる熱は、目尻から堰を切ったように流れ出した。視界がぼやけて、後から後から落ちていく。咽喉が引きつって、巧く声が、息が出せない。





「……あ〜あ〜……別に泣かせたい訳じゃなかったんだけど…………三好くん、」



 手首の拘束が解かれて、臨也さんの手の平が一瞬視界を暗くした。顔を滑るように、親指の腹で目尻の涙を浚っていく。



「そうやって声を押し殺して泣かれると案外つまらないから、何か汚い言葉でも、呪いの言葉でも吐きながらにしてくれないと」




(いっそのこと、殺してくれればいいのに

 非道なら、優しくしないでほしいのに

 ああ、ほら、今度は疵口を拡げようとしてる)



「暇潰しにはいい駒だったよ。三好くんならシンガポールでも大丈夫なんじゃない?」




 息が、

止まって    吐いて    吸って    噎せて    引きつって    咳いて    溜めて    吐いて    止めて    吸って    噎せて    引きつって    咳いて    溜めて    吐いて    止めて    吸って    噎せて    引きつって


      ボクは



「大丈夫?これでも呑むといい」


 水の入ったペットボトルを渡され、頭が働かないままに嚥下する。入りきらなかった分が口端から流れ落ちた。



「本当、学習しないよね、君も」



 意識が遠のく。ガラガラと【あれ】が音を立てて近づいてくる。
 手からペットボトルが滑り落ちて、地面に落下する。立っていられなくて、濡れた地面に倒れ込んだ。
 屈み込んで、僕を覗き込む臨也さんが何か呟いた気が、した。








 本当は嫌だけど、僕は行くことにします。さようなら、サヨウナラ。







------
あとがき
臨戦ルートで池袋に残ったのに、臨也にいらないって言われて逃げちゃったヨシヨシみたいな。自分の中では臨也はヨシヨシイジメたい!!な感じです(笑)
企画参加楽しかったです!!


企画サイト様Transit alley

[次へ#]

1/7ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!