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13「愛してる」(六紫)
 
 
「紫」

「…何だい?」

「あ、あー、あのな」

「だから何だいさっきから」




たまにする家族サービスほど喜ばれるものはない。
一京がそう豪語するものだから試してみようと思ったが、人間慣れない事ほど上手くいかないものだ。さっきから俺は呼び掛けては止め、言いかけては止めを繰り返している。

はっきりしない様に苛立っているらしい、紫の反応は徐々に刺が目立つようになってきた。
そろそろ言わなければならないようだ。紫の堪忍袋の緒は切れんばかりに悲鳴を上げている。


一京が悪いのだ。
一言だけで済むだなんて言うから。
旅ばかりでよく家を空ける自分にはぴったりすぎる一言だと言うから。

ならば試そうと思ったが、なかなか口が動かない。
これほど言いにくい一言だなんて聞いていなかった。




「紫」

「だから、何だい?」

「あー、あい」

「藍?」

「いや、だからー…」

動け、俺の口。
たった五文字なんだ。
それだけ伝えればいいんだ。

「あ。あい、し…」

「…もういいかい?夕食の買い出しに行きたいんだよ」

言いながら紫はそそくさと部屋を出て行こうとする。
待て。買い物なんかより大事な事なんだ。言わなければ。今言う。言ってやるさ。




「……てる」


「え?何か言ったかい?」

「だからよ、あー…」



「全くもう。言うなら、ちゃんと言っとくれ」


照れたように笑って、紫はそのまま出て行った。
日が落ちる前には帰るよ、と小さな言葉だけが部屋に落ちた。

脳裏がびりびり痺れた気がした。
遠ざかる足音に向かって、俺は思わず叫んでいた。








  「 愛してる 」











       … 了
















+++++

六紫と、ほっとけなくてつい構っちゃう一京。

いつも六に入れ知恵してる一京さん。なかなかくっつかない二人を見てるのがもどかしいらしいよ。
恋だの愛だのにヘタレな六を、紫は待ってあげてるようです。


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あきゅろす。
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