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小説
優しい嘘を(六紫)
 

優しい嘘を





丑ノ刻参りかィ?
そう茶化すアタシを一瞥するとソイツはすぐに目を逸らしやがった。

馬鹿だねぇ。そうだと云ってくれりゃあ黙って信じてやれるのに。
それだけで何も言及なんざしなくてすむってぇのにサ。そうやって口ごもっちまうからこっちも聞きたくなっちまうんだ。


毎晩毎晩鉄の臭いをぷんぷんさせやがって。
アタシだってその鉄臭さが何を意味してるかわかんないほど餓鬼じゃあないんだ。こちとらアンタが心配なんだよ。
それを、なんだい、黙り込みやがって。


ねェ、六。
沈黙を守る背中にそっと触れる。

ねぇねぇどうか。美しい嘘を付いておくれよ。


アンタ、毎晩毎晩一体何処で何をしているんだい?



あの馬鹿は黙ったまんま答えない。
その沈黙を答えにしちゃあいけない。そうだろう、六?

アンタはアタシに隠しておきたいんだ。その腰の刀を毎日手入れしている理由も。たんまり金の振り込まれた預金通帳の理由も。毎晩出掛ける理由も、その鉄の臭いの理由も、全部全部。

だったらどうして黙っちまうんだい。
云っておくれよ。
刀の手入れは趣味だからと。金は自慢の書が高値で売れたんだと。出掛けるのは毎晩一京と飲んでるからだと。鉄の臭いは刀の切れ味を試そうと鉄を切ったからだと。

騙して騙されるのが悪いなんて思っちゃいないよ。
だからアタシを騙しておくれよ。
優しい嘘を、付いておくれよ。




お帰り。
広い背中に縋り付いて、アタシは泣いた。
やっぱり六は何も云ってくれなかった。



あぁ、こんなにもあったかいや。生きているんだね?生きて帰ってきてくれたんだね?

それが嬉しくて、アタシは奴に文句の一つも付けられなかった。









       … 了














(嘘も方便ってだ云うだろ?)

(だから、優しい嘘でアタシを欺いておくれよ)



 

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あきゅろす。
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