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小説
そんな、愛し方(七紫)
 

ねェさん。
アイツなんかヤメて俺にしなよ。



そんな、愛し方






夜。闇の中で金の髪が光っている。
雲の切れ目から時折覗かせる月がそれを映していた。
編み目のように薄い雲は少しずつ流れていく。その度にきらきらと金の髪が光る。

初めて彼を見た時から警戒はしていなかった。
それがいけなかった。
彼が六にあまりにも似ていたから二人が兄弟だということはすぐにわかった。だけど実直で馬鹿正直なとこまで似てるなんて決め付けたのかそもそもの間違いだった。
もう少し自分が慎重であったなら、こうして首筋に刀を当てられることもなかったろうに。



「何の真似だいボウヤ」

「七弥だよ、ねェさん。つーか今の自分の立場わかってんの?」

身の丈に余る程の刀を平然と扱う彼は六の弟。
兄とは不仲らしく、六のいない時を狙って紫の前に姿を見せた。刀を向けられたのは初めてではない。場が悪くなると刃物をちらつかせるのは少年の悪い癖なのだろう。

「俺がちょっと刀動かしたらさ。ねェさん死ぬんだよ」

彼はゆっくりと距離を詰め、手を伸ばせば届く位置に立った。
刀を紫の右肩へ滑らせ、襦袢の襟で止めた。刃は、その細い首筋に向いている。

相手が紫でなかったなら、この程度で恐れ戦き命乞いをしたかもしれない。
だが相手が悪いというのだろうか、肝の座った彼女は殺意のない陳腐な脅しには屈しなかった。

「何がしたいんだい?」

紫は静かに聞いた。
月明かりが白い肌を照らす。

「何度も言わせんなって。アイツはヤメて、俺と来なよ」


あぁ。
赤い口紅から弱々しい溜息が漏れる。

「返事しないとオッケーってことで取るよ?」

嬉しそうな笑みを見ているとやはり彼の幼さを感じた。笑っていれば、彼だって年相応の少年なのだ。
そんな幼い少年が六と離れ自分の元へ来いという。
やれやれ、最近の子供は早熟だね。
心の内で毒づいたことを、少年は知る由もない。

「馬鹿言っちゃあいけないよ。だからアンタはガキなのさ。生憎そんな文句で付いてく程アタシは若くはないんでね。一昨日おいでよ、ボウヤ」

一息に言ってのけると少年はきょとんと目を見開いた。 

「アンタさ、アタシが欲しいんじゃなくて、六からアタシを取り上げたいだけだろう」

核心を突いたらしい。少年は視線を逸らした。

「アンタは六が嫌いだからアイツの嫌がることをしたいだけなんだろ?」

「…ねェさん」

「どこか違ってるかい?」

少年は自分の思惑を見破られたのに驚いているらしく、いつもの屁理屈も無しに刀を収めた。
紫はもう一つ溜息をついた。


「…理由はなんにせよ、俺必ずねェさんをさらってくから」

「はいはいそうだね。楽しみにしてるよ」

そう笑って、紫は下駄を鳴らして帰路へと付いた。
雲はすっかり流れ、柔らかな月の光だけが注いでいた。






残された少年がどんな顔でそれを見ていたか、知るものは何もなかった。





     … 了






++++++

七弥は六の弟。まだ十代半ばの生意気な今時少年。
六兄弟は複雑です。六は弟がいるってのを最近知ったんだとか。


わかった顔してわかってないのは紫さんです。

 


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あきゅろす。
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