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小説
オンリィ・ロンリィ(ナカジ+D)
 

駅前の商店街に続く道。
その200m手前の噴水の広場の隅。
そこに奴が来るようになったのは何時からだろう。確か夏頃からだったと記憶しているが確証はない。
とにかくそこに、奴はいたのだ。







オンリィ・ロンリィ








その日もそう。
CDショップからの帰り道、そこを通ったらそいつがいた。
話したことはない。時々通ったときに見掛けるだけだった。
そいつはいつもギタァを掲げ、吠えるように歌っていた。

……下手くそめ。
いつも思う。

ギタァは悪くはない。乱雑に掻き鳴らしているようだが、よく聞けば細かい部分までしっかり音が組み込まれている。
意図的に作った間以外は全て音で埋め尽くされ実にきめ細やかだ。それでいて曲調は大胆。
たったひとりで、たったひとつのギタァであれだけ弾ければたいしたものだ。
だが問題は歌だ。
声はよく通る。歌詞もいい。
なのに、奴の歌は人の心を惹きつけるものじゃなかった。
人気ドラマの主題歌のコピィも、オリジナルの曲も、ポップスもバラードもフォークソングもメタルも。どんな曲でもそうだ。誰の耳にも届くが、心にはあと一歩響かない。そんな歌ばかりだ。
特にロックは。人の心に届く前に、夕暮れに飲まれるようにして霞んでしまう。彼方でぼんやりと聞こえる有り触れたビィジィエムのような不確かな歌など、誰も聞きはしない。

暫くすると奴はいない客に向かって一礼をして片付け始める。
奴がここで弾くのは大体一時間。一時間もの間、たったひとりで歌い続ける。それが、寂しそうにも誇らしそうにも見えた。
自分も、そうだろうか。
奴ほどの頻度ではないが、路上で歌うことはある。客はいない。人込みの中でひたすらに歌う、たったひとりで。
そんな自分は、奴の様に寂しく誇らしげでいられてるだろうか。

ふと、奴が顔を上げた。バンダナの下から覗く眼と、視線がぶつかる。

御清聴、有難う。
奴の唇がそう動いた。

どきり。心臓が大きく脈打った。
だが奴はすぐに視線をギタァへと戻し肩に担いだ。そしてひとつ伸びをして帰路へと着いた。
その間も心臓は爆音を鳴らして血液を送る。恐れているわけでもないのにじんわりと変な汗をかいている。 
気付いていた。
たった一人の客の存在に。遠くで耳を澄ませていた俺の存在に。
自分と、同じだ。
弾きながらでも奴がいるときはすぐにわかる。目立つからだ。紫の長髪は遠目にも際立っている。トサカが付いていれば尚更だ。
自分が歌っているとき、奴はただ静かにそれを聞いていた。或いは遠くを見つめていた。バンダナで隠された眼は音を見ていた。見えるはずのない音を、確かに見ていた。

もしかしたら似ているのかもしれない。
下手な音楽も自身の在り方も似通っている、だからこうも興味を持ったり、酷く疎ましく思うのかもしれない。


下らないな。
そう思いながらも、俺は先ほど聞いたばかりの悲しいロックを思い出していた。







      … End








++++++

Dとナカジ。
カプじゃないし、知り合いですらないんだけどなんか好きな組み合わせ。
ふたりとも歌は下手じゃないけど、今一歩何かが足りない。


厳しい現実にモロに直面してるふたり。
ふたりだけが、ひとりぼっち。
 

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あきゅろす。
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