小説
吐く息は白くて(六紫)
明日は、早く起きるから。
そう言っていたのに、アイツは昼になっても昼を過ぎても起きてこなかった。
+ 吐く息は白くて +
何してんだい、あの馬鹿は。
珍しく早起きするなんて言うもんだから。ちょっと気合いを入れて朝食を作ったのに。朝の弱い兄さんだって随分前に遅い朝食を摂っているというのに。
全く、あのねぼすけは。
仕方なく立ち上がる。
起こしてやらなければどうせ後で小言を零すのだ。
やれやれ。
溜息ひとつ。
「六、六!何してんだい早く起きな!」
勢いよく扉を開け、一喝。
が、答える者はなかった。
「あれ?」
抜け殻となった布団は冷たくなったまま残されている。
窓も机もそのまま。
ただ、その部屋の主だけが姿を消していた。
そうかい。
出てくなら出てくで、言ってくれりゃいいのに。
ふたつ目の溜息。
「ほんと始末におえないんだからあの馬鹿……」
「誰が馬鹿だ、誰が」
「……え?」
振り返れば見慣れたあの青い髪がいるわけで。
「え?」
「ほれ」
軽い声と共に彼は生臭いビニールを差し出した。
「なに、これ」
「鯛」
「そうじゃなくてどうしたのさこれ…」
「買ってきた」
「…アンタどこ行ってたんだい」
「朝市」
「あさ……」
呆れた。
何だい、それ。
「お前も連れてってやろうと思ったんだがな。起こしても起きないから置いてった」
「起こした?アタシを?」
そんな覚えはない。
しかし、彼のことだ。軽く声をかけるぐらいだったのだろう。
なんだ。
よかった。
本日三度目の、ただし初めての安堵の溜息。
「何溜息着いてんだよ」
「いいや、なんでもないのさ……」
六がそれを不思議そうに眉を寄せたので緩く笑ってごまかした。
「しっかしお前も案外寝起きが悪いな。あれだけ起こして起きないなんてな」
ふふんと得意げに鼻を鳴らす様が、なんだかとても腹立たしくなったので。
とりあえず生臭いビニール袋を、奴の顔に叩き付けてみた。
+END+
「てッ!何すんだ!」
「…五月蝿いよ馬鹿!」
「だ、誰が馬鹿だ、誰がっ!」
「アンタだよ!女心のわかんない奴だねェ!」
「はぁ!?」
痴話喧嘩は仲良しのしるし。
朝起きは、三文の徳?
ちょっと魚のビニール叩き付けるってやりすぎだよね。
痛!臭!
六と昭和姉妹は3人一緒に暮らしてます。
それぞれ仕事なり旅なりで家を開けたりするけど、一番家にいるのは紫さん。
……実はあった同居設定。
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