小説
桜下のギタリスト(繚乱)
「メンバーが足りないならわたしが弾くわ」
モモカは平然と私のギターを掴み、そしていくつか音を鳴らした。
私は自分の物に他人が触れるのが嫌いだった。そんな様子が顔に出ていたのか、モモカはごめんなさいねとギターから手を離した。
この女の本名は百川蘭子。
「ひゃくかわ」と書いて「ももかわ」と読む。珍しい名前だからすぐに覚えた。
最初はそれだけでただのクラスメイトとしか認識していなかったのだが、いつの間にか話をするようになり、私は奴をモモカと呼ぶようになっていた。無論、その間に多数の問題もあった。だが今となっては全て過去のこと、この場で話を蒸し返す事はすまい。
「お前ギター弾けたのか」
「あら、わたしの趣味、ギターよ。弾けないなら貴女に話し掛けたりしてなかったわ」
一々引っ掛かる、癖のある言い回しをする女だった。その上口調はどこぞの小説のようだ。イマドキの女子高生としてはあるまじき姿だと度々思う。
しかしこうして何処か古風でズレている女でなければ、私は百川蘭子という存在を気にも止めなかっただろう。
「それで、どうするの?その余ったギターパート、ハナザが弾かないならわたしが弾きたいわ」
私をハナザと呼ぶのはこいつを含め4人。そいつらと路上ライブでも、と盛り上がったのがこの話のきっかけだった。
私、ハナザこと花沢梨緒(本名は嫌いだ。特に名前がな。)が余分に作ったギターソロが悩みの種で話が進まずにいたのだが、弾き手が見つかるならそれにこしたことはない。
「…本当に弾けるんだろうな」
素人が触れるような、そんな簡単な譜面ではない。寧ろ、難しい。
「そうね、実力を疑うのは当然ね。じゃあわたしの腕の程をご披露したいから、貴女のギター、借りてもいいかしら?」
淡く、微かな笑みを浮かべてモモカが手を差し出した。
右手の爪が、ギタリストのそれだと主張するのが見えた。
…END…
++++++
ハナザとモモカ。繚乱の女の子ペア。
名前の由来は百花繚乱をあれこれ文字ってあります。余談ですね。
ギター弾く人って右手の爪が特徴的てテレビで見たんですがほんとですかね←
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