小説
それはさながらSとN(極ナカ)
それはさながらSとN
「お前はどこから来て何処へ行くのだろうか」
少年は唐突にそう尋ねました。或いは独り言かも知れません。
僕はそれを質問として受け、答えました。
「人は過去から来て未来へゆくのです。誰しもそうではありませんか」
人は生まれ、いずれ死ぬ。
それは過去から未来へゆくこと。
少年の聞いたことは当たり前のことでした。
「お前は違うだろう。過去から未来(ここ)に来て、また過去へ帰る。普通、人は時代を越えて生きることはない」
今度はこちらに顔を向けて、少年は言います。
お前は普通ではない。
お前は異端者なのだ。
昔、父上に言われた言葉が、脳内で少年の声と重なっていました。
懐かしい父上のお声を掻き消して、僕は反論します。
「僕は、普通です。お国の為に尽くす善良な国民です」
「…?何をイラついている?」
「なんでもありません。君の質問の意味がわからないだけです」
「言葉通りだ。お前はこの時代と過去とを行き来しているだろう」
そう。少年の言う通り。
僕は兄様と共にお国の為に戦う時代と少年と過ごすこの時代のふたつを行き来しています。
何時からこうなったのかも原因もわかりません。ですが僕はこれを喜ばしいことと思っていました。
「僕は、少年と話が出来てよかったと思っていますが」
「生憎だな。俺はお前と居ると気分が悪くなる」
「……減らず口を」
僕らは馴れ合うことを知りませんでした。
僕が語りかければ少年は拒絶し、少年が手を伸ばせば僕はそれを振り払う。
それが普通だと思っていましたし、馴れ合うことを好ましいとは考えていませんでしたから、僕等の関係は何時だって冷ややかでした。
「僕は、少年が好きですよ」
「俺は、」
「僕が嫌いですか」
「…そうは言ってない。だが好きじゃない」
少年は眉を歪めてそっぽを向いた。
これでいいのです。この関係が、僕たちなのですから。
「僕たちはこれから、何処へ行くのでしょうか」
僕たちは何処まで一緒にいられるのでしょうか。
僕はそう尋ねたつもりでしたが、少年はそれには気付かず、暢気に鼻歌を歌っていました。
了
++++++
極ナカ。
何気なくプッシュ。
限りなく他人に近い知人か。友達以上恋人未満親友以外なふたり。
言葉で表すにはどの関係も不適当。
わかりあえないのに、嫌いあえないふたり。それはさながら磁石のS極とN極のように。
どれだけ反発しあっても、いつもふたつはセットです。
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