小説
悪アガキ(六紫)
「…無理よ!誓えないッ!」
「んだよ…朝っぱらから五月蝿い奴だな……」
† 悪アガキ †
「あぁぁ、夢か…」
紫は両手に顔を埋めて溜息を着いた。
朝。5時少し前。
本来ならまだ二人とも眠っている時間。
それを突然の絶叫でたたき起こされれば流石の六も気分が悪い。
「何なんだお前は……まだ5時だぞ、5時……」
「いや、いやね。夢が、ね。すごく嫌な夢を見てね…」
「夢ぇ?」
思わず間の抜けた声が出た。
こんな朝っぱらに騒がれて、何かと思えば。夢。嫌な夢を見た?
それぐらいで叫ばれたらたまったもんじゃない。
一方の紫はまだ慌てたように有り得ないを繰り返している。
有り得ない?誓えない?
どんな夢だってんだ、それ。
「お前、それどんな夢だったんだ?」
「えぇ?勘弁しとくれよ…あんまり覚えてないし……」
そう、夢というのは不思議なほどにすぐ忘れる。
目が覚める直前までは確かに脳内で展開されていたにもかかわらず、起きた次の瞬間にはすっかり忘れてしまうのはざらだ。仮にその時に覚えていたとしても、後で思い出そうとすると思い出せなかったりする。
「少しぐらい覚えてないのかよ?」
「いやね、覚えてるには覚えてるんだけど…」
歯切れの悪い答え。
こういう態度は嫌いだった。
「覚えてるなら言え。はっきりしろ」
つい、口調も強くなる。
「まぁ、別に構わないけどサ……えぇと何だったかな、確か結婚する夢」
「け……!?」
予想外の答えに、思わず詰まった。
とりあえず、聞いておきたいことがひとつ浮かんだ。
「教会で式の真っ最中で、アタシと黒服の新郎サンは神父サンの話を聞いてるんだけどね、その神父が神なのよ……」
何だかリアルだった。あの男は身内の結婚式なら喜んで神父役に立候補するするだろう。
いやしかし、問題はそこじゃない。
「で、アタシは思うのよ、アタシ、この人と結婚していいのかしらって」
「…それで」
「浮気しないし、優しい人だし、とりあえず文句はないけど……でも本当にいいのかしら?後悔しないかしら?…その時神父が言うのよ、健やかなるときも病めるときも、誓えますか?」
別の不安が頭を過ぎった。
それは、その意味は、その新郎は?
「そこで新郎の顔を見たら、それが」
それが……?
「土星だったのよ……!」
は?
「土星よ、土星!きっと前のパーティーで会ったあの人よ。無理。誓えないわよ。だって考えてご覧なさいよ、土星よ?小惑星が渦巻いてるのが見えるぐらいリアルだったのよ?もうびっくりして……だってまさか、土星と結婚するなんて………あら、六?どうしたのよ、何ぐったりしてるのよ」
馬鹿だった。俺が馬鹿だった。
そう、これは夢、夢なのだから。そんなリアルな相手が出るはずはない。期待と不安を一瞬でも抱えた自分が馬鹿らしい。自分のこの性格を呪う。
「…夢でよかったな…」
「本当よ。土星、土星はね……あぁ、トラウマになりそう…」
夢でよかった。
そう、夢で。
「紫」
「なぁに、六?」
「あのな、」
俺は、誓えるぞ。
健やかなるときも、病めるときも。
− end −
++++++
このまま結婚しちゃえばいい六紫。
芋曲の『悪アガキ』ネタ。結婚前の戸惑いとかそんなイメージです。
てか何気にコレふたりが一緒に寝てる設定だ!!Σ(゚□゚;)
書き終わってからふと気付いたよ。あららー
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