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 歓声が湧く、クラス対抗の球技大会、決勝戦。


 明るくて優しくて、運動神経の良い妹は、校内でちょっとした有名人。クラスの仲間、決勝までにぶつかったクラス、部活の後輩。色んな人が澪に声援を送ってる。
 私はと言えば、よりによって決勝の対戦クラス。試合に出ることも出来ず、双子とは言え一人相手クラスの澪を応援する訳にもいかず、ぼんやりと澪の雄姿を目に焼き付ける。

 良いなぁ、澪と同じクラス。どうして双子は同じクラスになっちゃ駄目なんだろう。

 毎年思う。双子という理由だけで私は澪と離されるのは何でって。皆クラス変えが楽しみだって言うけど澪と一緒になれないクラス変えなんて楽しくも何ともない、ただ憂鬱なだけだ。
 澪みたいに社交的じゃない私は友達も少ない。その数少ない友達は「同じクラスだよ」って喜んでくれたけど、私には澪が居ないと意味が無い。逆に、澪と一緒ならどんなクラスでも良い。例え担任が口煩い頑固な先生でも、何かとちくちく嫌味な先生でも、学校一の問題児が居ても、いじめてくる様な子が居ても、澪さえ一緒なら何も文句はないのに。

 マークされた澪がボールを手放して。
 わっ、と歓声が大きくなる。
 そうして、ドラマみたいに鳴り響く試合終了の音。

 ボールが誰に渡ったとか、誰がシュートしたとか、シュート決まったとか外れたとか。どっちが勝ったとか負けたとか。そんなことはどうでも良いの。私はただ、澪を見ていたい。
 シュートを決めたらしい人が澪に駆け寄って、ハイタッチ。澪もにこにこ嬉しそうで(かわいい)、だけど色んな人に囲まれて直ぐにその姿は見えなくなる。せめて相手クラスじゃなければ私も行けるのに。
 周りにいた友達は負けはしたけど健闘したメンバーを労いに行ってて、気付けば一人。それが余計に、沢山の人に囲まれて輝く澪を遠くに思わせて。

 ──ああ、また黒い感情が湧きだしてくる。
 最近は澪が遠くに行ってしまう気がして。離れて行ってしまう夢ばかり見て。どんなに呼んでも振り返ってすら貰えず、一人、たった一人で暗い闇の中に置いていかれる夢を見る。
 痛みと、不自由さと引き換えに澪の優しさを利用して手に入れた澪の隣。ずっとずっと、何があってもそこに居られると思っていた場所が揺らぐ。

 どうすれば澪は私だけを見てくれるんだろう。
 どうすれば誰にも邪魔をされず、澪と二人で居られるんだろう。
 どうすれば、どうすれば…──

「お姉ちゃん?」

 間近で聞こえた澪の声に、ぱっと顔を上げる。
 思ったより近い澪との距離に少しだけ驚いて、でも心配そうに下がった眦に心が軽くなった。
 澪が、来てくれた。

「具合悪い?足が痛むとか?」

 心配そうに覗き込んでくる瞳、まるで自分が痛いのかとでも錯覚しそうな声、そっと優しく額に触れる掌。全部、澪のぜんぶが好き。
 言葉を発したら溢れてしまいそうで。大丈夫だよって首を振るだけで精一杯だった。


 ──大丈夫。
 澪はどんな時だって、いつだって来てくれた。他の何よりも優先して、自分のことより私を優先して駆け付けてくれてた。

「だから大丈夫、澪は来てくれるよ」

 例えこの暗い世界で一人待っていても。虚が鳴き始めても。


 ミオハキテクレル、
 ワタシガノゾムナラ






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