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たまにはやきもちやいてよ

「ねえリヴァイ、エレンくんって徒手格闘術すごく強いんだね」
「…」
「対人格闘なんて、って思ってたけどわたしももっと訓練しよっかな」
「…」
「必要なときがくるかもしれないし…」
「…」
「もうリヴァイ、聞いてる?」
「うぜえ」

うぜえってなに。いくら忙しいといってもその態度は如何なものか。むっとして睨みつけるが、目の前の男の視線は相も変わらず書類に向けられていて、当然そんな状態で目が合うわけもない。そしてわたしの気も失せてしまった。不満で眉間のしわが寄るのはきっと仕方がないことだ。

むすっとして近くのソファに乱暴に座り込む。あまりにも勢いをつけて座ったからか、ソファから悲鳴が聞こえたような気がしたが聞こえないフリをした。
わざわざ会いにきてあげたというのにこの男は乙女心をまったくわかっていない。楽しく会話ができないのか。非情なヤツめ、と心の中で小さく文句をたれた。それらを口に出して言わないのは返り討ちがこわいというのと、「別に来てくれとは頼んでねえ」とか蔑んだ目で言われそうだからだ。

この男が今までに自分からわたしのもとに会いに来てくれたことがあっただろうか。いいや、ない。周囲には内緒にしてるけれど、一応これでもわたしとこの男は付き合っている、はず、だと思う。多分。恐らく。
こうしてたまに会えるのはまめに顔を出すわたしの行動力のおかげだ。きっとこの行動力がなければ平気で数ヶ月も会わないなんてこといくらでもある。あれ、わたしたちって付き合ってる、よね?
そうやって不安になって1人ぐるぐると考えて、でもこの男はいつもと変わらない無愛想を貫くのだからほんといい性格をしている。
わかっているのだ。わたしが一生自分のことを嫌いにならないということを。要は自分に心酔しているオルオとか無条件で信頼してくるぺトラたちと一緒。つまり同じ扱い。何様!むーかーつーくー!

たしかにきっと一生、わたしがこの男を嫌いになる日はこないだろう。悔しいが認める。認めるけれど、でも、納得はしないのが乙女心というもの。まあ、この男に乙女心を説いたところで意味はないのだろうけれど。
バッカみたい。ふん、と荒く息を吐き出し、無言で立ち上がった。わたしだって暇じゃないんだから。

この男は言葉使いも荒いし足癖なんて修正不可能なほどに悪い。人を痛めつけるのが楽しくて仕方がないようなとんでもない性格をしている。人類最強とか言われてるけど、正体はただの鬼畜だ。あと潔癖。それにわたしは一兵士だし、この男は兵士長だ。正直身分的なものだってあるし、身長なんてびっくりなことに同じぐらいである。チビめ。
だけど、それでも。憎いほどにこの男が好きだった。

「おい、どこ行く」

ぴたりとその声に足を止めた。まさか引き止められるだなんて。珍しいこともあるものだと思いながらも、「…いえ、お忙しいようですので失礼しようかと」と訝しげな顔をしながらも振り返った。うざいと言ったのはアンタでしょーが、と睨むのも忘れずに。

「お運びする書類があるようでしたらかわりにお持ち致します。わたしは兵士長の直接的な部下ではなくハンジ分隊長の部下ではございますが書類をお運びすることぐらいはできます」
「…」
「それともオルオたちをお呼びしましょうか」

恐らくそのあたりで兵士長に呼ばれるのをお待ちしているでしょう。にっこり笑って言ってやれば、男の眉間が不機嫌そうに寄った。

「なんだ、怒ってんのか」
「わたしがですか?」

まさか!兵士長様に怒るだなんて!そう言って大袈裟なくらいのジェスチャーで頭を振れば、さらに男の目付きが悪くなった。

「まずその腹立つ言葉使いをやめろ」
「腹立つ?どこかおかしいところがありますでしょうか」
「削ぐぞ」
「…そうやってすぐ暴力で解決なんて、ほんと野蛮ね」
「生憎育ちは良くないんでな。お前こそその気持ち悪い敬語はどこで習った?」
「生憎育ちはいいんです」

ツン、と顔を逸らす。ほんと、嫌になる。相変わらず可愛くない性格をしていると思った。わたしも、そしてこの男も。もう今更だけど。

「ではわたしはこれで」
「おい」
「…まだ、なにか?」

わたしだって忙しいんですよ。不満を隠しもせず吐き出したその言葉。なんたってエレンくんが対人格闘の自主練に付き合ってくれるって言ってくれたんだもん。そう言ってやれば、なぜか男の声色が低くなった。意味わかんない、わたし別に怒らすようなこと言ってないじゃん。

「…訓練は今度にしろ。そのかわりそこの書類を夕方までに整理しろ」
「は、はあ!?な、なんで!」

その書類、そう言ってこの男は近くにある書類を指差した。どう見てもどっかの班の報告書にしか見えない。

「なんでわたしが!あんたの部下にやらせたらいいでしょ!」
「今ちょうどこの部屋にお前がいるんだからわざわざ呼ぶ必要もねえだろうが」

横暴!と叫んだら、鼻で笑われた。痛くも痒くもなかったらしい。

「…なによ、そんなにわたしと一緒にいたいんだったらはじめからそう言えばいいのに」
「はっ寝言は寝て言いやがれ」
「リヴァイなんて嫌い」
「そりゃどーも」
「…うそ、好き」
「…、」

リヴァイという男は無愛想で、野蛮で、足癖が悪くて、あと口も悪くて、それからチビで、病的なまでに潔癖。わたしが自分を嫌うことはないんだと決め付けて、いつも余裕綽々で、腹が立つ。むかつく。あとチビのくせに生意気。
だけど。
たまに嫉妬してくれるぐらいにはわたしのこと、好きだと思うの。

「…ねえさっきエレンくんにやきもち妬いたでしょ」
「削ぐぞ」

…たぶん。




あきゅろす。
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