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午前零時。長針と短針がかちりと重なるその瞬間、

確かな愛を求める人がいて、終わりの見えない夜を願う人がいて、想い人をおもい枕を濡らす人がいて、二次会に繰り出す酔っぱらいがいて、警戒心を剥き出しに吠える犬がいて、終焉を望み目を瞑る人がいて、はたまた明日がくるのを待ち望む人もいて。
じゃあ貴方は何をしているのだろうと思った。

小学生の頃からなにも変わらない淡い花柄のカーテンはいつからか開放されることはなくなって、そして花柄のカーテンの向こうにあるベランダに彼が立つこともいつからかなくなった。
確か彼に年上の彼女ができてからだったような気がする。閉じられたカーテンは彼の心をあらわしているのか、わたしの心をあらわしているのか。
ただわかるのは、わたしは今から彼との関係を壊そうとしていることぐらい。

アドレス帳にある『い』の文字をさがして、でてきた名前を画面越しにやさしく撫でた。その手が少しふるえていたのはきっと気のせいだ。大丈夫。この関係が壊れても、また作り直せばいいだけ。ただそれだけ。

だからお願い。今日もそのカーテンは閉じられたままでいてね。と。
呼び出しのコール音に耳を傾けながら、カーテンの隙間からいまだ明かりのついたままの彼の部屋を見つめた。数回鳴ったあとに、懐かしい声がわたしの名を読んだ。

「久しぶり、」

蓮、と彼の名前を紡いで。それからふと夜空を見上げた。星が疎らに散らばっていて、月は屋根に隠れて見えない。確か一昨日は満月だったから、今日は肉眼でもわかる程度に欠けているかもしれない。
突然の電話に蓮は驚いたようだったけれど、少し間があいてどうかした?と返ってきた。何?じゃなくて、どうかした?と聞いてくるあたり、相変わらずやさしい人だなあと思う。

「ん、…ちょっと今時間いい、かな?」
「うん、大丈夫。ちょうど勉強してたから」
「へえ、偉いね」
「明日小テストだからね」

意外とすらすらと会話は流れたように、思う。思うだけであって、実際のところどこかその雰囲気はかたい。クラスも違うし、まともに話すのは久々だからかもしれない。学校じゃあ女子の目があってなかなか話す機会もないし。

「…蓮、あのね、話があるの」

大切な話。ずっとずっと心の中で隠していた気持ち。わたしの緊張が伝わったのか、わずかに彼の部屋のカーテンが揺れた。
きっと、あなたはびっくりするだろう。

「…蓮、すきだよ」

ぱちん、と空気が弾けたような、気がした。




わたしたちは所謂世間一般でいうところの幼馴染みという間柄だった。幼稚園からの写真には必ずといってわたしの横には彼がいて、きっとそれはこれからもずっと続いていくのだと信じて疑わなかったし、わたしには彼がすべてで世界だった。それはあまりにも小さな世界だったと思う。今ならわたしもそう思う。

彼に彼女ができたと知って、(しかもその彼女がちょう可愛いの!実は面食いだったらしい)いとも簡単にわたしの世界はぐちゃぐちゃになった。なんて呆気ない世界だったのだろうとすこしだけ笑うほど。あれだけわたしの傍にいたのに。何かを裏切られたかのような喪失感と虚しいような寂しいような、よく分からないごちゃ混ぜなそれに苛まされて、気が付いた。
ああわたしは彼がとても好きだったのだと。

あまりにも鈍感すぎて笑えた。馬鹿だなあって自分に呆れた。気付いたところですでに手遅れだったから、ただずるずると行き場のない想いだけを引き摺って彼を避けてカーテンを締め切ってもう数年が経つ。蓮がその彼女と別れたと知ったのは随分と前の話なのに。

でも、今日で終わるの。立派にあたって砕けて、また幼なじみに戻りたい。

「ずっと、蓮が好き、でした」

恥ずかしくて、声がふるえる。ぎゅうっと耳にあてたままの携帯を握りしめた。どんな顔をしてるんだろう。蓮も、わたしも。せめてこれをきっかけに嫌われませんように。ただその思いが募る。募った結果、思わず出た言葉は予防線。

「…あ、で、でも返事はいらない、から!」

いらない。聞きたくない、が正しいんだけど。だってわかってるし、知ってる。だから昔みたいに元通りとは言わないからせめてわたしは彼の幼なじみなんだって、胸をはりたい。

「… だめ、かな」
「……」
「………、」

だめ、なのかも。じわりとでてくる涙が腹立たしい。。障害なんて何もないはずなのに。この携帯電話は彼の声すら拾ってはくれないのかと言葉をつまらせたその時だった。シャッと布を切る音がして、ガチャガチャ、のあとガラガラと窓が開く。え、窓?

そうしていつぶりになるのだろう。ベランダに立って、わたしの目の前に現れた彼は随分と赤い顔をしてそれからそっと言葉を紡いだ。やさしい顔をしているのはねえ、どうして?期待、してしまう。

「…あのさ。さっきの、過去形?」
「へ?」
「…すきだった、って」
「あ、えと、」

ちがう。本当は過去の気持ちじゃない。だって、

「…俺も、すきだよ」



午前零時。長針と短針がかちりと重なるその瞬間、わたしは彼に長年の想いを伝えてそれからきれいさっぱりフラれる予定だった、はず。

「…それって、過去形?」

口もとを隠してしまった彼が、現在系と小さく囁いた言葉がまだ通話中と表示された携帯から軽やかにわたしの心に届いた。





企画に提出するものだったやつ。光琉たんに捧げます。




あきゅろす。
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