be free 一家のクリスマス。 「お父さん、お父さん」 クリスマスまであと一週間というある日。 義父と母とで談笑を交わしていると、遥希が妙ににこやかな表情で現れた。 「クリスマスプレゼントは新型プレステ3…」 「駄目」 義父の一喝。思わず吹き出す母と私。 リビングには遥希の悲痛な叫びがこだました。 我が家のサンタは、 「仕方ないわよ。高いんでしょ、あれ」 「39,980円…」 その値段に改めて難色を示すと、遥希は眉間の皺を一層深くする。 私はテレビの前に備え付けられた黒くてスマートなゲーム機に目をやり、そして尋ねた。 「プレステ2はあるじゃない。駄目なの?」 「お前は何も分かっていない…!」 芝居掛かった口調に笑いを漏らすと、むくれる頬をつついて遊ぶ。 そう言えば、遥希は普段から私に何かねだったりしないものの、クリスマスプレゼントのリクエストさえ一度もなかった。 私はもう彼女にプレゼントを買っているし、去年もそうだったから彼女も多分それを分かっている。 しかしそうは言っても何となく疑問に思ったので、私はそのまま口にしてみた。 「私には買ってくれって言わないのね」 「サンタってのはお父さんって決まってるの」 現実的なんだか子供っぽいんだか分からないその答えが物凄くツボに入った私は、堪らず彼女を抱き締めた。 目一杯の愛情を込めて何度もキスを贈り、いまだ不服そうながらも僅かに頬を染めてくれた彼女の頭を撫でてやる。 少し残念な気もするが、「遥希のサンタさん」の称号は、やはり義父ただ一人のものであるようだ。 そしてクリスマス当日。 いつもより豪勢な夕食の席で、義父は私にクリスマス限定コフレをプレゼントしてくれた。 喜びに湧く私を見て微笑む母の首元には、これもサンタからのプレゼントであろうネックレスが光っていた。 「遥希もな、あんなに欲しがってたからな」 その言葉に即座に反応し、立ち上がる遥希。 しかし嬉しそうに開いたはずの遥希の口は、感謝の言葉を紡ぎ出すことはなかった。 義父が差し出したそれは、明らかに小さい。どう頑張ってもプレステ3は入らない。 遥希は押し黙ったままラッピングを外し、中身を確認すると途端に目を丸くした。 「プレイステーション3……専用ソフト」 しかも3本。恐らく新品。 先程まで上昇の一途を辿っていた遥希の温度が、急激に冷えていくように感じた。 「…寄りにもよって…これ?」 「何ならプレステ2のソフト買ってあげたら?って言ったんだけどね」 小声で問い掛けた私に苦笑する母。 そんな中、心底愉快そうに笑っているのはそう、義父である。 「頑張ってバイトして買え。本体は」 固まる遥希の前で非常に爽やかな笑顔で親指を立ててみせるサンタに、母と私は一週間前と同じように吹き出した。 意地悪なサンタ! 「いじめだ…」 ※愛すべき仲良し一家。 百合要素少なくてすみません…。 [←][→] [戻る] |