be free お誘いメール。 放課後、本屋に立ち寄って物色しているとメールが一件届いた。 差出人は義母の事務所からの帰りであろう姉だった。 件名:お疲れ様! --------------- 今どこにいる?私今日早上がりだったのo(*^ω^*)o もし駅近くにいるなら一緒に帰らない? カワイイ遥希たんをお姉さまが速攻で迎えに行きマス☆彡 最後の行への突っ込みはさて置き、私が今いる本屋はまさに駅ビル内にある。 特にこの後の予定もないし、私は彼女の提案に乗ることにした。 件名:お疲れ --------------- 今駅ビルの本屋 雑誌フロアにいるから来て 送信完了を確認すると、めぼしい漫画本をいくつか小脇に抱える。 私はそれらの会計を済ませてしまってから、雑誌フロアへと向かった。 しばらく雑誌を立ち読みしながら暇を潰していると、後ろからぎゅっとお尻を掴まれた。 一瞬心臓が止まりそうになったが、こんなことをするのは奴しかいない。 「馬鹿姉…」 「もーぉ。相変わらずメール冷たーい」 唇を尖らせて不満を漏らす痴女現行犯。 確かに私のメールは基本的に顔文字などを使わないため素っ気ないものだが。 「びっくりするじゃん。やめてよ」 「だってせっかく早上がりなのに、遥希の喜びが感じられないんだもの」 お姉ちゃん寂しいな、なんて涙を拭く仕草をしてみせるものの、もう片方の手はいまだしっかりと私のお尻を掴んでいる以上、同情の余地など存在しない。 私は無礼な手を少しだけつねってやってから払いのけ、雑誌を元の位置へ戻した。 「ほら、帰るよ」 「やっぱり冷たいー」 不満の色を濃くした姉は私の一歩後ろについて歩き、ハンドバッグでちょいちょいお尻をつついてくる。 いい加減我慢の限界を迎えた私は、タイミングを見計らってヒット直前のバッグを後ろ手に掴み取った。 「…遥希、イチローみたい」 「言ってる場合か」 間の抜けた台詞に、怒る気もなくしてしまう。 振り向いたその先で、とても綺麗に微笑んだ彼女と目が合ってしまったから、余計に。 さっきまでぶちぶち文句を垂れていたくせに、今度は些細なことで喜んでいる。全く、忙しい人だ。 本当にどうしようもない、私のお姉ちゃん。 「お姉ちゃん、前に話したハニーメープルワッフルが美味しいお店、行こっか」 姉はきょとんとした顔をしてこちらを見つめるが、見る見るうちに再び笑顔を取り戻していく。 恥ずかしながらそのことに私は、胸の辺りがきゅうっと熱くなるのを嫌でも感じてしまうのだ。 あぁ、私は何て甘い、何てとろけた人間になってしまったのだろう。 例えるなら、そう。今まさに私が口に出した、甘いシロップが熱々の生地にとろりと掛かったアレ。 ハニーメープルワッフル (放課後デートね) (…今さり気なく自分を学生の仲間入りさせた?) ※甘ったるいのは言うまでもなく。 [←][→] [戻る] |