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be free
from.Shizuka

結婚願望なんてくだらないもの、抱いた覚えがない。

便利な男捕まえて、可愛い女の子引っ掛けて、適当に騒いで楽しく過ごせればいい。


この世界は、私一人がどうあっても何一つ変わらない。
しかし日本という小さな島国に住む一人の女にとって、5億平方キロメートルの面積と50億超の人間なんて必要ない。
私が生きる世界は、私の周りだけに存在していれば充分だ。

ならばこの現状を見てみるがいい。
私が笑えば、皆は手を叩いて喜ぶ。
私が怒れば、皆は必死になって取り繕おうとする。

欲しいものだって何でも手に入った。
無理強いなどしていない。小首を傾げて微笑んでみれば翌週には私の手元に小包が届く。ただそれだけ。


私の世界は、私の望んだ通りに動いている。いとも容易く。
実に愉快、そして同時に退屈だ。人生というものは。


そんな私が一人の少女の動向に一喜一憂するなんて、勿論予想だにしていなかった。




「遥希、お姉ちゃんにホワイトデーは?」
「ない」


こちらと目を合わすことさえせず、実に素っ気ない返答。
クール過ぎる態度が私の淡い期待をがつんと打ち砕く。


「バレンタインに貰っただけでもありがたいと思え」
「酷い。お姉ちゃん両方あげたのに」


今夜の団欒の場で、私は義父と母に日頃の感謝の気持ちを込めて洋菓子の詰め合わせをプレゼントした。
二人共私と同じく甘党なので、それはそれは喜んでくれたものだ。

勿論愛しい遥希にもホワイトデーのプレゼントを。
バレンタインデーに可愛らしい一面を見せてくれたので、奮発して某洋菓子ブランドの生チョコレートを贈った。
ビターなココアパウダーに包まれたそれは、やはり遥希のお口に合ったようだ。

しかし、しかしである。
私は遥希からのホワイトデープレゼントも心待ちにしていたのだ。
望みが薄いということは充分に承知していた。
相手はあの遥希だからだ。恋人同士の浮かれた行事に、彼女はほとんど関心を示さない。
バレンタインデーにくれたこと自体が奇跡に近い出来事である。

それでもやはり、私は期待をせずにはいられなかったのだ。

恨みの籠もった瞳で見つめてみるも、彼女の視線はゲーム画面から一向に動く気配がない。
大きな溜め息を一つ漏らすとやっとちらりと見やってくれたものの、ぷにぷにのお口から出た言葉は「諦めなさい」という非情なものだった。

ならば仕方がない。私にも考えがある。
正直言って、私は“諦めが悪い”のだ。遥希に対してだけは。


「じゃあいいもん。お姉ちゃん、遥希のこと貰っちゃうから」
「馬鹿ふざけッ…ちょっと!」


細い手首を捕まえて、耳の近くを舐め上げる。
不意のことに我慢しきれなかったのか遥希は、ぐ、とくぐもった声を漏らした。


「遥希あったかくて、あまぁい」
「や、馬鹿ぁ…ッ」


瞬く間に赤く染まった頬に、わざと音を立てて口付ける。
小憎たらしく歪んだ唇に余裕の笑みで応えてから、今度はそちらを少々荒っぽく奪ってやった。

抵抗しながらも反射的に舌を受け入れてしまうだなんて、何とも可愛らしいではないか。
縮こまった舌をつついてやると、熱の籠もった声が鼻から抜けていった。

いよいよ調子に乗った私はそのまま身体を押し倒し、ほんの僅かに息を弾ませながらこちらを睨む彼女の髪を優しく優しく撫でた。


「こんな素敵なお返し貰えるんなら、来年もお菓子とか無しでいいわよ」
「あげてない!あげるつもりもない!」


無理強いまでして手に入れたくて、触れたくて、そのためなら多少の努力も労力もいとわない。
馬鹿の一つ覚えのように固執してしまっている。

何でも楽して手に入れて、そして使い捨てていたこの私が?時々自嘲気味に思う。
しかしそんなことすらすぐにどうでもよくなってしまうほど、目の前の少女は私にとって今日もあまりに魅力的に映るのだ。




ハッピーホワイトデー、堪らなく愛しい妹へ。








※静の隣に遥希がいて、初めて彼女の世界は色付いた。

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あきゅろす。
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