逃げ着いた教室で身体を擦る私



影で恋路のゆくえを見守る教師(生徒指導)四十五歳(ズラ)M


 逃げて、しまった。
 歓喜と共に訪れた自分への失望に、耐えられなかった。
 以前と変わらず柔らかい雰囲気を醸し出している王子様を前に、胸が苦しくなった。もちろんそれは、罪悪感で、だ。

 もう会えないかもしれないのに、私は逃げた。私の事なんて覚えてないかも知れないけど、ちゃんと謝るべきだった。
 GWを終えた今なお後悔が私の心を蝕んでゆく。

「りーおーちゃんっ。おはよう、朝から会えるなんて運命的だと思わない?」
「…………」
「もっしもーし」
「…………」

 朝っぱらから不愉快なモノに出会ってしまった。というか変態似非優男が勝手に私の横で騒いでいる。
 あれ? ちょっとまてよ。自分で言うのも難だが今日はいつもとは全く違う顔をしている。いつ王子様に逢っても好いてもらえる、というかお似合いと言われるようなメイクを止めたのだ。
――私なんかが王子様の隣に並べると思っていたなんて自惚れにも程がある。私にそんな資格はない。

「莉央ちゃん莉央ちゃん、ねぇ聞いてる? 莉央ちゃーん」
「シャーラアアアップ! マジで着いてくんじゃねえ! ……ですよ」
「前から所々敬語って呼べない敬語だったけど……今一瞬忘れたよね?」
「………………唇縫い付けてやりましょうかストーカー野郎」

 ってあまりにも煩いから反応してしまったがそうじゃなくって。

「……なんで私だってわかったんですか。顔、誰も気が付かないくらい違うのに」
「わかるよ。莉央ちゃんは莉央ちゃんだから、ね。大丈夫だよ、」

 莉央ちゃんは今日も可愛い。と、最後だけ私の耳元に唇を寄せて脳を溶かすんじゃないだろうかと思わせる声で囁いてきた。
 甘い、甘すぎる。というより身体中がむず痒くて気持ち悪い。もう鳥肌に冷や汗ものだ。

「ヒッ、こ、来ないでください」
「あ、もしかしてキュンてきた?」
「き、」
「き? キスしたいの?」

「キモいから近寄るんじゃねええええ!」


逃げ着いた教室で身体を擦る私

(一層機嫌の良くなる彼)
10.5.9


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