サンサンと私に降り注ぐのは、愛しかったあなたの――
「リカ、どうして逃げるの?」
「こないでっ! もう私に構わないでください!」
逆ギレして私を襲おうとしたくせに、浮気したくせに――裏切ったくせに。
醤油が残り少ないことに気がついて誰に言われるでもなくお使いに出たのがいけなかった。
――会ってしまったのだ、蓮本さんに。
偶然か必然がと問われれば偶然と答える。偶然だと信じたい、必然だとすればそれは蓮本さんが私を待ち伏せていた事になる。蓮本さんが待ち伏せだなんて、信じたくない。
そもそも、お使いなんて愁介に任せてしまえばよかったのだ。生憎スーパーに着く前に蓮本さんに会ってしまったからまだ醤油は買ってない。今すぐ帰って愁介をパシろう。
「リカ!」
走り去ろうとしたらすぐに追いつかれて腕を捕まれてしまった。運動神経が決して良いとは言えない自分を恨むばかりだ。
「離してください! わ、私用事あるんで!」
「僕を捨ててあの男の所になんて行かせない」
「っ、意味わかんない! 離してってば!」
「言葉でわからないなら、仕方ないよね」
私にはない男の力で蓮本さんは私の腕を引いた。痛いし速いし腕を引かれているから足がもつれそうになる。無駄な足掻きだとわかっていながらも踏ん張ってみたり腕を自分に寄せたりと試したが無駄だった。
結局私は何も出来ずに蓮本さんの部屋へ連れ込まれてしまう。
「――っ! いやっ! 帰る!」
部屋の中に引かれ少し腕を握る力が緩んだ。きっと自分のテリトリー内に戻ったことによって気が緩んだのだ。
自分の腕を思い切り振りほどいてドアノブに手を着ける。
「リカ、そんな小さな抵抗で僕から逃げれると思った?」
ビクリと思わず肩が揺れる。ドアノブをいくら回してもドアは開かない。
――私の後ろから蓮本さんがドアを抑えているから。
「それとも、煽ってるの?」
耳元で響く蓮本さんの声に震えが止まらなくなる。
「や、だ……」
「ねえリカ、もう諦めたら? それとも……僕に監禁されたいの?」
「っ、いや! いい加減にしてください! あなたなんて大っ嫌――っ!」
振り向いて言葉を発した瞬間、体が倒れて左の頬が熱くなった。ああ、私蓮本さんに殴られたんだ、と理解したのはその熱さが痛みだと気づいた後だった。
蓮本さんは追い討ちをかけるように私に跨り平手打ちをした。
「お兄ちゃん? 今凄い音がしたけど……お兄ちゃん!?」
誰かが部屋に入ってきたのがわかった。ああ助かったんだ、と少し冷静になってから気がついた。
サンサンと降り注ぐのは、愛しかったあなたの涙
(なんで、あなたは泣いていたの?)