『新着メール、一件』
私の今の“彼氏”は、本当にバカだ。こないだの遊園地で確信した。と言うより、気が付いた。
アイツは私の言葉を上手いこと良いように脳内変換してしまうたちなのだ。つまり、私の吐く毒を毒とすら思っていない疑惑があがる。
【おはよう! 起きてるかー?(^ε^)今さっき高校の制服届いたんだけど、篠崎んとこももう届いてるか? あ、そいえば高校どこ? 聞くの忘れてた(*゜∇゜)ノ】
…………相変わらずの絵文字付きメールが遊園地以来ウザく感じる。アイツはこの顔文字達のように脳天気で天晴れな頭をしているのだろう。
顔文字すら付けずに高校名を送った。
『送信完了』
画面を見送った直後、大きな音が私の部屋に鳴り響いた。
「あねきいー! 姉っ、なんか来た!」
「あんたはまた……いい加減にしなさいよ?」
バン! とドアをあけて部屋に入ってきた弟を睨みつける。こいつのせいで最近私の部屋のドアがキイキイと不快な音を立てるようになってきている。
「あ、ごめん。――じゃなくてほら! なんか来た! 俺も一緒に開けていい?」
「なにそれ。てゆーか愁が開けて」
「いいの!?」
やった、と愁介は嬉しそうに笑い、いそいそと包みを開け始めた。ご丁寧に私が座っているベッドにあがってから。
包みの中にある箱を開けて出てきたのは、
「制服? あ、高校のか!」
タイムリーとはこの事を言うのだろうか。それとも噂をすればナントやらは衣服にも通ずるのだろうか。
――て言うか、宛先に制服、としっかり書いてあるのにも関わらず気づかない私の弟は残念ながら頭のネジが幾つか足りていないようだ。
「姉貴っ、着てみて?」
「いや。面倒くさいし」
「いいじゃんっ! 姉貴の制服姿見たい!」
「そのうちイヤでも見るでしょ」
――ブー、ブー
『新着メール、一件』
バイブと共にサブ画面に表示された文字を見て携帯を開く。この際愁介はもう無視だ。
「…………は? あ、ちょっと愁! なにすんのよ!」
メールを開いて内容を確認した途端手の中から携帯が攫われた。もちろん、目の前に座る愁介に。
愁介は私から奪い取った携帯を閉じて自分の後ろに隠してしまった。ほんと意味わからない。
「どうせアイツだろ。今は俺と話してんだから止めてよ」
「は? アンタ意味わかんない。携帯返しなさいよ。それかメール読み上げて」
「やだ。今は俺に構って、制服着てみて」
「アンタ本当に意味わからないから。ほら、早くして」
姉貴のが意味わかんねーし、とかなんとかブツブツと言いながらも携帯を開いてメールを読み上げ始めた。
「えぇっと……。まじで? じゃあ春からも一緒の…………学校? ……は?」
顔を上げてキョトンとした表情で見つめられても困る。だって私が一番困惑しているのだから。
【まじで!? じゃあ春からも一緒の学校じゃんv(^_^)v 俺も刹高だよーv(*^^*)/】
とりあえず携帯返せ、と白いテディベアを愁介の顔に投げつけた。
始まる前から不登校宣言したい。
(近いからとか適当な理由で友達と刹那高校を受けたあの頃の自分を殴り飛ばしたい)