近付くにつれガヤガヤと休日よりは少ないであろうが活気づく遊園地前。
弟が行き先を聞いてきてウルサいから早めにでたら待ち合わせの十分前に着いてしまった。
これじゃあ、まるで私が楽しみにしてるみたいじゃないか。……今からでも帰ってしまおうか。
「し、篠崎っ! こっちこっち!」
「…………」
元来た道を辿ろうと踵をめぐらせた私に声がかかった。……正直まったく乗り気ではない。しぶしぶ振り返ると駆け寄って来ていた様子の“彼氏”。見た目の変わりように遠目では気が付かなかったが、どうやら私よりも先に来ていたらしい。
「おはよう、篠崎! いい天気だなっ!」
「…………今日曇りなんだけど」
「あーっと……ごめん、俺やべぇ緊張してて」
心臓破裂しちゃいそう、と金色に染まった短髪を掻きながら困ったように苦笑いを顔に浮かべる。
――本当に言うとおりにするなんて、コイツは馬鹿だ。
中入ろう? と差し出されたフリーパス――私が来る前に買っていたらしい――を受け取り園内へ入った。
「なにか乗りたいのある?」
「……別に」
「じゃ、じゃあ絶叫系から行っていい!?」
私の薄い反応にイラつきも見せずにキラキラと瞳を輝かせてこの遊園地の名物ジェットコースターを指差した。わかりやすく絶叫系が好きらしい……。
「勝手にすれば」
「やったっ! じゃ、行こ!」
目先のアトラクションにしか気が向いていないのか、許可もなく私の手を掴みグイグイと進んでゆく。声を掛けるか振り払うかで迷っているうちに列の最後尾についてしまった。
「ねぇ、手、離してよ」
「あ、ごめんっ! 興奮したらつい……」
別に……。と、シュンとなり俯いた“彼氏”から目を逸らした。
――慌てて離された手が寂しいだなんて、誰が思うものか。
気まずい空気のままジェットコースターの順番がまわってくる。
「あんた奥座って」
「あ、うん。わかった!」
ジェットコースターへの嬉しさか、照れからか、コクコクと勢いよく縦に振られた顔には赤みが差していた。
***
「ねえ、喉乾いた。飲み物買ってきてよ、ミルクティね。私そこのベンチにいるから」
一通り絶叫系のアトラクションを乗り回したせいか体力の消耗が激しい。
わかった! と軽く駆け出した体力有り余るようすの“彼氏”を無言で見送ってからベンチに座る。
しばらくして、息を切らせながら“彼氏”が戻ってきた。――別に走らなくてもいいのに。
「ありがとう」
「お、うん」
なんだその返事は。そう思いながらもキャップを開けて乾いた喉を潤す。そして、胃にミルクティが到達してから気が付いた。
「…………お腹すいた」
「え? 腹? あー言われてみれば昼過ぎてるし……一緒にフードコートいく? それとも俺がなんか買ってこようか?」
「あんた……兄弟いるの?」
「兄弟? うん、兄が一人」
だからか。その見上げたパシリ根性は兄弟関係から来ているものと見て間違いないだろう。
「一緒に行く。自分で選びたいし」
「そっか! へへっ、一緒に歩いた方が楽しいもんな!」
脳内変換機とか、あるわけ?
(ピンとたった耳と、ブンブンと振られる尻尾が見えた気がした)