ふわふわと桜の花びらが舞、昼下がりの暖かい日が私たちを照らす。
「美味しいよ。リカちゃんは料理が上手なんだね」
「あ、いえ……。蓮本さんのも美味しい、です」
先輩はふわり、と優しそうで柔らかい笑みを顔に浮かべている。
公園のベンチ。
私の手には蓮本さんの作ったお弁当。蓮本さんの手には私の作ったお弁当。
――蓮本さんの提案で今日の二人ピクニックが開催された。
私と蓮本さんが知り合うキッカケはふた月程前、喫茶店の相席からだった。
今時そんなベタな出会い方ないでしょ、とツッコミたくなるぐらいに蓮本さんの珈琲が大々的に零れて私の服を汚し、何かお詫びをしたいからと連絡先の交換、それからズルズルと友達と呼べない友達のようなただの知り合いのような、微妙な関係が続いている。
――蓮本さんといると、自分が自分じゃなくなったかのような錯覚に陥る。この感覚は、何?
「ごちそうさま。とっても美味しかったよ」
蓮本さんはにっこりと私に笑いかけてからさも当たり前のように私のお弁当箱を自分の鞄にしまう。
「あのっ、蓮本さん。お弁当箱――」
「このお弁当箱は僕に洗わせて? これを返すって口実でまたリカちゃんをデート誘うから」
「で、デートっ!?」
ケロリとデートと言いのけた蓮本さんは、私の驚きっぷりを見て悪戯に成功した子供のような笑みを浮かべている。
――こんな笑い方もするんだ……。
「次はリカちゃんの好きな所に行こう? 何処にでも連れて行ってあげるよ。どこがいい?」
第一印象は冷たそうな人、だった。ノンフレームの眼鏡からの印象。
でも実際の蓮本さんは優しく微笑む優しい人。きっと京都に行きたい、とか無理を言っても車の免許は既に習得済みらしいから、じゃあ吉野桜見なくちゃね、とかなんとか行って軽く連れ出してくれる気がしてならない。――だからこそ、あまり我が儘は言いたくない。
「……どこでも、いいです」
「うーん。どこでも、かあ。遊園地とか動物園は? 水族館っていう手もあるよ?」
「じゃあ……動物園で」
あああ、虫酸が走る。
(ああ、まだ忘れられない)