私の目覚まし音


 入学式の翌日、また私は携帯を忘れたらしい。学校に着く前には気付いていたのだが二日連続と言う自分の情けなさに溜め息がでる。

 自宅の玄関に入るとすでに愁介の靴が置いてあり、靴を脱いで上がる時にはおかえり、と言いながらリビングから愁介が出てきた。

「ただいま。午前だったの?」
「うん、二時間だった。明日からは普通に五時間だけど。それより、廊下に携帯落ちてたよ」

 言いながらニヤニヤと笑う愁介にバカにされた気がして軽く頭にキたが差し出された携帯を大人しく受け取る。

「なにニヤニヤしてるのよ。気持ち悪い」
「いや、えっと……姉貴が忘れ物とか珍しいからなんかほら、な?」

 一瞬焦ったような顔をしたがそれでも愁介の顔には笑みが浮かんでいる。

「あんた、なんかあったわけ? 彼女でもできた?」

 その声に愁介は、はあ!? と大声を上げ驚き不愉快を表すように顔を歪めた。

「なに言ってんだよ。俺に彼女なんて出来るわけねえだろ! 彼女とかいらねえし!」

 それはどこの強がりの台詞なのよ。眉間に皺をいっぱい寄せた愁介はもういい! と叫び階段を駆け上がって部屋に入ってしまった。

 もしかしたらコレが反抗期なのだろうか。もしくは成長期特有の精神不安定、というものなのだろうか。昨日の怒り方とは違い感情的だった。そんなに彼女と言う単語は成長期の男にとってタブーなものなのかと玄関先で考えるが、最終的に愁介の事を一々考えた所でアイツが意味わからないのは昔からなので仕方ないと結論付けた。

 自室に入りベットに座りながら携帯を開くと未読のメールや着信はゼロ。大抵マメな“彼氏”からメールが来ているのだが珍しい事もあるものだと首を傾げた。でもまあ、昨日もこの時間は来てなかった気がするし……。
 そう考えていたのだがその日、“彼氏”からのメールは一件も来なかった。

 翌日、私の目覚めは携帯の着信音ではなく、いつも以上に勢いよく開いたドアの音と爽やかに笑みを浮かべる愁介の声。

「姉貴、朝!」
「ん、うっさい」
「おはよう。起きろって!」

 体を揺さぶられて無理矢理目を覚ませられる。

「起きた、から。出てって」
「はいはーい。飯暖めたから早く来いよ」
「うん」

 昨日の怒りは何処へ行ったのだろう。いつも以上にテンションが高く、私の寝起きが悪かった事で更に嬉しそうな声を出していた気がする。変な薬にでも手を出したのではないかと心配になった。

 しかし直後に思い出し携帯を開く。着信が来ていない。もちろんメールも。
 約束を思い出す。これは、私が振られたと言う事だろうか。昨日の朝までは普通に電話もメールも着ていたのに。やはり、男なんてこんなモノなのだ。一月以上続いたと言うだけで、アイツも他の“彼氏”と変わらなかったのだ。

 なぜだか無性に携帯を壊したくなった。

途切れた繋がり

(なんなのよ)
10.7.24


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あきゅろす。
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