嫉妬とも言える


 自宅に帰りるとやはり携帯は部屋にあった。 どうも鞄に入れ忘れていたらしい。新着メールは一件も着ておらず、何故か出所不明の不快感を抱いた。
 不貞腐れるように制服のままベッドに転がると初日の疲れからかそのまま寝てしまい、起きた時には日が暮れて八時を過ぎたところ。

「ねえ、なにかある? ……って、誰も居ないし」

 リビングには誰もおらず、親もまだ帰宅していない。もちろん夕食なんて用意されている筈もなく、昼食を取っていない私の腹はひどく落ち込んだ。
 念のため炊飯器を開けてみたが空。冷蔵庫の中身からも麺類などのササッと作れそうな材料はなく、野菜などおかずに使う素材ばかり。今から米を炊くよりも近くのコンビニに出た方が格段に早い。

 はあ、と溜め息を一つ吐き、手軽な私服に着替えてスニーカーを履く。持ち物だって携帯と鍵と財布のみのかなりな軽装だ。
 玄関に靴があったので愁介は部屋に居るらしい。何をしているのかはわからないが、私が立てた物音に気が付かないという事は寝ているのか音楽を聞いてるのか何かに集中しているのかだろう。
 念のために玄関の鍵をかけて暗い道を歩く。少し前だったら確実に米を炊いていただろうな、なんて考えているうちにコンビニについた。

 店内を軽く回って弁当を二つ手に取り二三人の列になっているレジに並ぶ。前方を覗くと最前列に見覚えのある金色の短髪。
 会計を済ませた金色が振り返り、目が合った。金色は予想通り“彼氏”で、私に気づいたのかニコニコしながら駆け寄ってきた。

「すっげー偶然! 一人? それ晩飯?」
「うん、そう」

 満面の笑みを浮かべて悠々と話しかけてくる“彼氏”をあしらいながら順番の回ってきた会計を済ませて外にでる。

 自宅に向かい歩きながら震え始めた携帯を開き耳にあてた。

「姉貴! 今何処?」
「コンビニ出た所」
「は? 一人で?」
「うん。あ、ちょっと待って」

 そこで視界を遮るように手を振られて隣を歩いている“彼氏”を視界に入れた。そう言えば、なんでコイツは隣を歩いているんだろう。

「あんたの家向こうじゃないの?」
「あ、覚えててくれたんだ。もう暗いし夜道は危ないから送るよ。愁介にも教えてあげて? 心配してるみたいだしさ」

 話の内容を理解しているといる事は電話から声が漏れてたらしい。まあ、愁介が大きめの声で話している上に周りの雑音がほとんどないから予想はしてたけど。

「もしもし? やっぱ一人じゃない」
「聞こえた。カズ先輩でしょ? とりあえずそっち行くから」
「別にいらないんだけど」
「っ、行くから!」

 切られた。なんでそんなに必死になってるのかわからない。けど、自分の眉間に皺が寄っていくのはわかる。

「仲いいよな、篠崎たち」
「別に。アイツなに考えてるのかわかんないし」

 緩く微笑んだ“彼氏”から目を反らしふてぶてしく言い放つと頭に手を乗せられた。私は直ぐに手で払って少し距離をとる。
 コイツに頭にを撫でられるのは好きじゃない。気が弛み、何かが溢れそうになる。

「触らないで」
「ごめん。…………そう言えば! 篠崎は何組だった?」

 睨み付けた私を見て“彼氏”の顔が一瞬泣きそうになった気がした。見間違いかもしれないが。

「C。あんたは?」
「A組だよ。今日知り合った奴がさ、コーヒーにスゲー砂糖入れて――」
「っ姉貴!」

 前から愁介が駆け付けてきた。全力疾走で来たらしく息が荒い。

「カ、ズ先輩、ありがとうございました。も、大丈夫ですから」
「そっ、か。じゃあ篠崎、また学校でな。おやすみ。愁介も、またな」
「じゃあね」
「どうも」

 挨拶を軽く返した所で愁介に手を引かれ、“彼氏”に背を向けた。
 強めに握られた手に少し早い歩調。デジャブのようだ。前を歩く愁介は何を考えているのだろう。なにがしたいのだろう。

 家に大分近づいた所で歩調が遅くなり愁介が口を開く。

「どうしてこんな時間にコンビニなんか、」
「夕食なにもなかったから」
「じゃあなんでカズ先輩といたんだよ!」

 ギュッ、と握られた手に力を足された。

「コンビニで偶々会っただけよ。なに苛ついてるわけ?」
「姉貴は無防備すぎる。夜道で男と二人きりなんて、なに考えてんだよ」
「は? 男とって……三日月よ?」
「カズ先輩だって男だ! こんな人気のない道じゃ、なにされるかわかんないだろ!」

 ――カズ先輩にだって気を許さないで。


夜道に響く心の叫び

(気を許してなんていない)
10.7.6


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あきゅろす。
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