届かない気持ち


 パタン、と背中を使いドアを閉めた弟の手には湿布に包帯、ついでにミネラルウォーターの入ったペットボトル。

「だから言ったんだ。あんな胡散臭い男なんてやめとけって……!」

 頬や手首が赤らんでいる私よりも苦しげに顔を歪めて吐き出された言葉に瞳を逸らす事しか出来ない。

 蓮本の妹が駆けつけた直後、何故か愁介が部屋に駆け込んできて、俺の姉貴につらづらと重度のシスコン張りの発言と拳を蓮本にかました。
ちなみに帰りは愁介の乗ってきた自転車に二人乗りだった。

「あんた、なんであそこに居たわけ?」
「買い物、俺も一緒に行こうと思ってすぐに家出たけど居ないし、電話しても出ないから何かあったんじゃないかって。探しまわったらアイツの家の前にコレ…………。姉貴のだろ?」

 ベッドに座る私の横に包帯などを置き、ぽっけから取り出したのはシンプルなキーホルダーが一つだけ付いた私の携帯。
 愁介は携帯を私の膝に置いてから私の横に腰をかけ、湿布を開け始めた。

「そ、うだけど……。あんた蓮本の家――」
「知ってた。前に、姉貴がアイツと一緒にいるの見て嫌な予感したから調べた。」
「調べたって、なんで……」

 私の手首と頬に湿布を貼り、手首には更に包帯を巻いていく。その間、一度も私たちの目は合わなかった。

「ごめん、勝手な事して。……でも、姉貴が心配だったんだ」

 包帯を巻き終えた愁は顔をあげて私の頬に貼られた湿布の上から手を添えた。その表情は悲しげで、泣きそうで、何かに怯えているような……そんな顔をしている。

「俺、姉貴の事が……っ、心配――なんだよ…………」

 途中から絞り出したかのような弱々しい声音になり、私の頬に手を置いたまま愁は俯いてしまった。
「愁、」
「姉貴、俺と約束して……」

 愁介はそろそろと湿布の貼られていない方の頬にも手を添えてから俯いていた顔をあげた。その瞳は先程の弱々しい表情が嘘だったかのように鋭い。

「男と付き合うなとは言わないから……せめて俺以外の男を、男に、気を許さないで」
「意味、わかんない」

 コイツは何を言っているの? 否、何を言っているかは理解できる。でも愁介の真意が見えない。――だいたい、愁介が私にこんなに鋭い視線を寄越すのだって初めての事だ。

 戸惑いから顔を背けようとしても両頬に添えられた手によって苛まれて、視線をゆらゆらと震わせる事しかできなかった。


「俺だけを信じて」


増え続ける鎖

(絡まった鎖はもう……)
10.3.31


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