梅雨――雨、あめ、アメ、飴。
口の中には一昨日霧島くんに貰ったストロベリーヨーグルト味のロリポップ。場所はもう直ぐ公園。手には縞馬模様の傘。ポッケにはマカロニきな粉味のロリポップとお財布と鍵。
日曜日の雨の日は、どうして散歩に出掛けたくなるんだろう。
緑がいっぱいの大きな公園の中には人が全然居なかった。こんなにも綺麗な紫陽花がたくさん咲いているのに、それを観るのは私一人だけ。
お母さんは紫陽花が好き。私も好き。でも、嫌い。お母さんは、お母さんが結婚した人、私のお父さんは紫陽花みたいな人だった。紫陽花の花言葉のような人だった。
――浮気症で、たくさん浮気して、それなのに独占欲が強くて、お母さんを締め付けてた。
うちはまさに昼ドラみたいな家庭だった。
お父さんは、お母さんの事が大好きだったのかもしれない。お母さんは、あまり感情を表に出さないから、お父さんはなんとか感情を表に出させようとしたのかもしれない。
……今になってはもう誰にも聞くことはできないけど。
だから紫陽花は好きだけど嫌い。心の、色の変わらない紫陽花があればいいのにね。
「あれは……霧島くん?」
空色の傘を肩に掛けて、真剣な表情で黒いカメラを紫陽花に向けている霧島くんを発見。そういえば、霧島くんって写真部だったっけ。
「きーりーしーまーくんっ」
「え? ってうわぁっ、か、香奈ちゃん」
「部活?」
「あ、いや、コレは部活じゃなくて、その、今日の紫陽花が綺麗だったから……」
「紫陽花、好きなの?」
「うん。でも、写真に写る紫陽花の方が好きかな」
「しゃ、しん?」
「うん。紫陽花って色が変わるから花言葉は悪い印象ばっかだけど、写真にしたら色とか変わらないし花言葉も無効かな、って……だから、写真の中の紫陽花の方が好き、かな」
「写真の中の紫陽花……」
――色の変わらない紫陽花。移り変わらない心。
霧島くんは凄い。少し寂しかった気持ちが、なんだか暖かくなった気がする。
あ、ちょっとごめん。って私に断りを入れてから、霧島くんはまた、紫陽花にカメラを向けた。
レンズの先には、ピンクに染まる前の、淡い青色の紫陽花。
真剣な表情をする彼は、いつもより逞しく見えた。
可愛くて、暖かい君。
(霧島くん、かっこいいね)
(えぇっ!? そ、そんな事ないからっ、かっこいいなんてっ)
(私も写真撮ろうかな“カシャ”……うし、待ち受けはコレに決定。霧島くんも、いる?)
(え、あ、ありがとう)